第32話 チート能力を得る

 隼人くんがエロイケメンから習った技術で宝箱を調べている。


「ああいう宝箱って持ち帰ってもいいの?」


「特に問題ありやせんぜ。家に置いて普段使いもできやす」


「あんな感じの『ザ・宝箱』ってやつに憧れてたんだよねぇ」


「でも行きで持っていくと邪魔んなるんで、できれば帰りの方がいいでしょうね」


「中身を抜いて放置すると箱ごと消えるんでしょ?」


「そう聞いてやす」


 スマホを撮影状態にして宝箱から離れたら何が映るのか興味は湧くが、万が一スマホが迷宮に吸い込まれたら嫌なので試せない。


「ちょっと奥田のスマホで試してよ」


「絶対嫌ですよ!」


「罠はないので開けますよー!」


 隼人くんから声が掛かった。


 一応何かが飛び出してきても大丈夫なように、隼人くんを含む全員が箱の正面からズレた位置へと移動する。

 隼人くんが鍵穴に針金を一本だけ差し込んで下方向へと力を加えると、いとも簡単に箱の蓋が持ち上がった。

 箱の前まで移動し中を覗き込んでみる。


「ん?なんだこれ?石?」


 ロッコも横から覗き込んできて中身を確認した。


「あー、これは『呼び声の石』っすね、魔力は流さない方がいいっすよ」


 ロッコの説明によると、石に魔力を流しながら言葉を聞かせると、その言葉をいつでも再生できるようになるらしい。


「その石って磨くと結構綺麗に光るらしくて、腕輪や指輪に嵌めると悪くない宝飾品になるそうです。で、その石に愛の言葉を覚えさせて意中の人に贈るのが流行ったというか、今でもよくやってるのを聞きやす」


「先輩、それで指輪作って贈ってくださいよ」


「呪詛を録音してやるよ」


 それなりに価値のある遺物らしいので、取り敢えず背嚢の奥へと入れておいた。


「でもその石を贈って数年後に再び聴かされると、贈った側は死にたくなるらしいっすよ」


「絶対そうなるよな。呪いのアイテムだわ」



◇◇◇◇◇



 巨大な蛾に遭遇することなく地下5階を抜け、そのまま地下6階へと辿り着く。


 狼型の魔物と数回遭遇するも問題なくこれを撃破。

 地下6階には虫型の魔物は出ないことがわかっているので足取りも軽い。その後も何一つトラブルに見舞われることもなく無事地下7階へ降りた。


 地下7階の通路を地図に従って進んでいると、中に入るのが躊躇われるほど大量の蛇がひしめき合う大部屋へとぶつかり、流石に近接戦闘するには気が進まないとして部屋の外から火球を投げ入れる形で殲滅した。


 中にいた蛇は『銀蛇』と呼ばれている魔物で、一匹一匹が人間の腰回りほどの太さをしており、これを大蛇と称さないのなら、地底湖にいる大蛇とはどれほどの大きさなのかと考えると、今から気が重くなった。


 蛇がドロップした魔石と蛇皮を集めていると、隼人くんが部屋の奥まった場所で宝箱を見つけた。


「これまだ習ってないやつだから外せなさそう」


 罠鑑定を行った隼人くんがそう判断する。


「じゃあ、離れてから魔法で転がしてみようか」


 全員が箱から20mほど離れた位置へと移動したので葵ちゃんにお願いする。


「じゃあ葵ちゃん、箱の近くに頼む」


「わかりました」


 葵ちゃんが持つ杖の先から放たれた火球は、宝箱から少し離れた位置へと着弾し、派手な爆発音を響かせた。


 爆風で宝箱が1メートルほど吹き飛び、迷宮の壁に当たると上下逆さまになって停止した。


「ん?罠どうなった?」


 隼人くんが箱へと駆け出し、5mほど離れた位置から確認すると、こちらへまた戻ってきた。


「まだ作動してないみたい」


 そう隼人くんが伝えてきたので、もう一度葵ちゃんに頼んで火球を撃ってもらうと、今度は吹き飛んだ箱から「パンッ!」という乾いた音と、眩い光が放たれた。


「変な音がしましたね」


「爆発系の罠だったのか?」


 再び隼人くんが箱へと駆け寄って確認する。


「箱開いたよー!」


 それを聞いて皆で箱へと近づくと、妙な匂いが漂っていることに気付いた。


「あ、少しオゾン臭がするわ。さっきの音は電気の罠だったんかな?」


 もう一度罠が発動することを警戒して杖で蓋を押して完全に開ききる。


「んー、大丈夫そう」


 あらためて箱の中を確認すると、中からは一枚の紙切れが出てきた。


「「あ!!!」」


 宝箱から出てきたものは翻訳の腕輪に使われている遺物『愚者の覚え書き』だった。


「いまさら手に入ってもなー」


 少し残念に感じるが、それでも希少な遺物のはずだ。自分たちで使うか売るかは後で考えよう。


「確かに見たこともない文字で書かれてますね、ええと?『卵の黄身、お酢、植物油、塩を混ぜる』って読めますね」


「それマヨネーズ無双だよ!ついにチート能力を手に入れたな!!」


「いやー、実際に異世界に来てわかりましたが、マヨネーズの作り方を知ったところで、卵の定期仕入れや、黄身の取り出し工程、白身部分の使い道や、マヨネーズを詰めるガラス瓶の仕入れや販路の用意って、こんなツテのない世界では絶対に無双しきれませんて」


「それな」


 そんな残念話を奥田としている最中、松下さんが宝箱の上蓋につけられた罠を調べていた。


「この罠って電気の魔道具なんじゃないですか?」


 そう言われて上蓋の内側を見てみると、確かに魔道具とそう大差のない作りをしていることが見て取れた。


「んじゃこの円盤が電気の魔法発動体かなあ?」


 一旦皆に離れてもらい、松下さんから借りたグレイブの柄でグイグイと罠を押して、各部品をバラして取り外した。


「後で試してみようか」


 実際にはどの部品がどう動くのかは分からないので、罠の部品だったと思われるものは全て背嚢に詰め込んでおいた。


「愚者の覚え書きよりこの罠の方が当たりだったかも」


 そう言いながら再び背嚢を背負い直した。


◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る