第29話 幽霊屋敷
リオから手渡された紙を開く。
「発表します!!!」
開いた紙を皆の方に向けて開いた。
「おお・・・・お?」
「ん?」
「読めないです」
自分で持っている紙を裏返して確認してみる。
これはこの世界の文字か。つまりは。
「あ、それ俺の名前っす」
命名権はロッコが獲得したようだ。
「ではロッコ、我々のパーティ名を発表して下さい」
「んっんー」
ロッコが一つ咳払いをする。
「えーっと俺が考えたパーティ名は『水暁の橋』(すいぎょうのはし)です。皆さんが住んでいた国は、夜明けを意味する国名だったと聞いたので「暁」と。そしてここリフオクの街を象徴する湖からとった「水」それらを繋げるための「橋」、俺やオサート、そして皆さんとが奇跡的に出会えた喜びを名前に込めました」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「え?まずかったっすか?」
「「「いやいやいやいやいやいや」」」
「全然まずくないよ、むしろ凄く良かったから絶句してしまったんだよ!」
「いいぞロッコ!」
「さすが王子」
「さすがDQN王子」
「人のバイク壊すなよ」
ロッコはみんなに揉みくちゃにされている。
奥田に背中をバンバンされてて少し痛そうだ。
「王子じゃねーっす」とか言ってる。
「素晴らしい名前をありがとうロッコ」
お礼を伝えておく。
「ありがとうロッコ」
「元気でなロッコ」
「別に辞めねぇっすよ!!」
今日もツッコミが鋭い。
かくして我々のパーティ名は「水暁の橋」に決定した。
それを聞いたリオは受付カウンターへと戻っていき、7枚のプレートを持って帰ってきた。
「はい、これが貴方達のギルド証よ。ロッコは個人登録のギルド証を返してちょうだい」
受け取ったプレートには何やら文字が書かれたいるが今は読むことができない。ただプレートを眺めていると、この世界にほんの少しだけ足場ができたような安心感を覚えた。
◇◇◇◇◇
明けて翌日、迷宮探索の疲れを癒すためにも終日休みとすることになった。
この世界に飛ばされてからというもの、食料採取や神殿探索、人里探しに冒険者登録と、少々駆け足で進んできたため、ここらで一息入れることにした。
朝食を済まして宿を出ると、後ろから奥田が追いかけてきた。
「先輩待って下さい。私も連れてってください」
奥田が同行を申し出てきたのでそれを許諾。
特に目的もなく街をブラつく予定だと伝える。
今日のような休日に釣りが出来そうな場所が見つかればいいなという期待も込めて、あまり治安がよくないといわれている街の北西にある港湾エリア方面へと足を向けた。
魔道具屋のお婆さんには、用もないのに近づくなとは言われていたが、迷宮で魔物と対峙したことにより、多少の荒事なら切り抜けられる自信がついたので今回の行先に選んだ。
◇◇◇◇◇
「相変わらずデカいな」
目の前に広がる湖は広大で、対岸の一部しか見ることができない。
ここから少し離れた場所にある港では、早朝だというのに多くの人が船の積荷を上げ下ろししている。
「何考えてるんです?」
「ええ???」
奥田からの突然の非難に戸惑う。
いま自分はスケベそうな表情でもしていたんだろうか?それとも無意識のうちに奥田の尻でも触ってしまったか?
「何か考え事をするためにここに来たんですよね?」
「あ、あー、うん、そう」
別にスケベな顔を咎められたわけじゃなかったのでホッとする。
今、奥田の言ったことの一部は正解だ。明日以降のことを少しだけ考えようと思っていた。宿の中で考え事をしていても良かったのだが、せっかくなので釣り場の選定を兼ねた形だ。
「まー、今後のことや生活の向上に関してかな」
そう話し始めた。
昨日冒険者ギルドへの登録が完了し、一先ずの収入を得ることが可能となった。
確かにグラビア写真は高く売れたのだが、地球のものを切り売りする事はスタートダッシュ特典のようなものであって、そう何度も行えるものではない。
それとは違う、労働を対価に向上的な収入を得る術は、生活の安定化には必要不可欠だった。
迷宮探索者なんてヤクザな職業だとは思うが。
そして一定の収入が約束されたのなら、現在の大部屋で雑魚寝していることの不満を解消するべきであろう。
特に年頃の女の子である葵ちゃんなんかは相当に辛い思いをしているはず。
「私は先輩と同じ部屋でもいいですよ」
「お、おう」
なので近く個室のある宿?あるいは借家?などを探したいと考えている。
「つまりはアレですね。不死系の魔物がこっそり住んでいることで、格安で売りに出ている屋敷を買う流れですね?」
「そんな都合のいいものないだろう」
「異世界ですよ?あるに決まってます」
断言しおった。
「あとあれだな、ロッコとオサートちゃんの杖の製作」
昨日は奥田と松下さんの杖を貸し出したが、彼ら専用の杖も作っておきたい。
翻訳の魔道具内を見た限り、魔導繊維とは魔素を浴び続けた植物が変異したものだと思われる。
そしてその魔素を浴び続けた植物っていうのが、最初の洞穴付近の樹木だったり枝が該当すると考えていた。
「ここの迷宮探索が安定したらもう一度洞穴まで行ってみるか」
「あの時は人里を探すために荷物は最低限でしたしね。今ならもう少し色々なものを持ち帰ってこれそうです」
最低限の中にキャットフード入れてたよね?
◇◇◇◇◇
せっかく港湾エリアまできたので、港の中枢部まで観に行こうと奥田が言うので、二人で港へと続く道を歩いていたら、途中で魚市場と思われる場所を発見した。
屋根はあるけど壁がスカスカの建物の中で、卸売人と仲買人と思われる商人達が威勢よく声を張り上げている。
「なんで競りの時ってガラガラ声でやり取りするんですか?」
「確か騒音の中でも言葉の内容が伝わりやすいんだっけな」
所狭しと置かれた木箱の中には何匹もの魚が詰め込まれており、その魚と一緒に氷まで入っていることに気づく。
「氷が入ってるよ。科学的に作られたものじゃないよなあ?」
「氷の魔道具ですかねえ?あるなら欲しいですね」
「水ならあるんだけどなあ」
この世界に来た当初は、ファンタジーのセオリーに倣って『火、水、地、風』の属性が基礎として存在しているもんだと思っていたが、件の翻訳魔道具の出現によって「翻訳って何属性?」という疑問が浮かび、色々と議論を重ねた結果『翻訳属性でよくない?』という結論に達した。
つまりは各種魔法を四元素に無理に当てはめなくても、魔法発動体が起こす現象だけを注視しちゃえばいい。あとはどこかの学者さんが上手いことカテゴライズしてくれるだろうと、考えることを投げ捨てた。
何が言いたいかというと、水の発動体を弄くり回しても氷は出せなかったという話だ。
「水ぶつけてもダメージ与えれんもんなあ」
巨大な水球をぶつければ相手を吹き飛ばせるだろうが魔石コストが嵩む。細く鋭くした水流を当て続ければ物も切れるだろうけど、戦闘中は相手もジッとはしていない。
そのことから水の発動体は元の水筒に戻された。
昨日ロッコが言ってた粘性をもった水ってのは改めて試してみないとな。
そして氷だ。
氷という固い物体をぶつけるような魔法が手に入れば、火が通りづらいゴーレム的な魔物と対峙したとしても役に立つのではないかと考えている。
この魚市場に氷の魔道具売ってないかなあ?
そんなことを考えていると、奥田が店先に並んだ魚を指差した。
「あ、これあのピンクマスだった魚ですよね」
「ほんとだ。色と背ビレは普通だな。名前はえーっと、読めんな」
箱には値札が刺さっており、何かの文字が書かれているが読むことはできない。
その時市場のオヤジさんが声をかけてきた。
「それは『イシマス1kg5輪』って書いてあるんだよ」
「へー、この魚ってイシマスって言うんですね」
「ここの湖でも獲れるし、近くの川でもよく獲れるぞ」
ありがとうイシマス。俺たちの腹を満たしてくれて。
「背中とヒレがピンクのイシマスは売ってないんですか?」
「ほぅ!お嬢ちゃん、凄いのを知ってるねぇ、それはイシマスが魔物化したやつだよ。名前もイワマスって呼ばれるようになるんだよ」
魔物化?
「ここの湖でも年に数匹獲れることがある幻の魚ってやつだな。どこかの学者さんが人工的に魚を魔物化させる研究とかしてるみたいだぞ」
「魔物化させると何かいいことあるんですか?」
「そりゃあまあ、美味いからだよ」
「へー、いつか食べてみたいですねぇ。おじさん教えてくれてありがとう!」
「おー、またおいで」
そう言って魚市場を後にした。
◇◇◇◇◇
「食べても大丈夫なやつって今更知れましたね」
「食べるなんてとんでもねぇ!とか言われてたら危なかったわ・・・」
「まああの時は仕方ないですよ。他に食べるものもなかったですし。おにぎりは無理やり食べさせられたので」
「ごめんって」
それにしても『魔物化』か・・・。
「小説なんかでも割と禁忌ですけどね、魔物食」
「異世界に来て一番最初から魔物食だったとは」
再び港へ向けて歩き出した。
「ミニトマトの鉢植えを迷宮に置いといたら『魔ミニトマト』になるんかな?」
「マミニトマト、言いづらい化することは間違いないですね」
他愛もない会話をしながら道を進んでいると、ついに港へと辿り着いた。
◇◇◇◇◇
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