第25話 心の洗濯
「数年前のことなんだけどね」
そう言ってリオは話し始めた。
この国からみて北西の方角にある隣国『ジナーガ王国』にある迷宮が踏破された時、最奥の部屋には宝ではなく少女がいたらしい。
迷宮を踏破した冒険者はその少女こそが震源遺物だと思い、街へと持ち帰ろうと手を伸ばしたら、少女はそこにいた誰もが理解できない言葉を発しながら泣き叫んで暴れ回ったそうだ。
その後、少女が泣き疲れたタイミングで身体を抱え上げ、どうにか街へと帰還したらしい。
街に戻ってから少女を学者に会わせてみたが何を喋ってるのかは判明せず、次の探索に出かけたい冒険者たちは困り果てたそうだ。
そこで冒険者たちは『これが震源遺物です、お納めください』と、少女を国へ献上しようとしたが、国はそれを拒否。
特に大きな問題を抱えているわけでもないジナーガ王国では『震源遺物』と呼ばれるものを手元に置くことで、何かしらのトラブルを呼び込むことを警戒したらしい。
少女を置いて迷宮探索へ行けない冒険者たちは日に日に目減りしていく資金に危機感を覚え、ついには奴隷商に売り払ったらしい。
国も受取拒否するような瑕疵が付いていたため、二束三文での取引だったそうだ。
その後はジナーガ王国の貴族の一人が少女を買い取り、手元で保護していたら段々と言葉が話せるようになり、少女にどこからきたのか、どういった能力を持っているかといった質問をすると、こことは別の世界から飛ばされてきたという内容がカタコトながらに聞き出せたそうだ。
◇◇◇◇◇
「ふむ・・・」
話を聞き終わり、誰しもが何も言えないでいると、松下さんが突然椅子から立ち上がり、凄い勢いで質問し始めた。
「その少女は今も保護した貴族のもとにいるのでしょうか?ジナーガ王国へ行くにはどうしたら良いのでしょうか?ジナーガ王国の冒険者はなぜ翻訳の魔道具を与えなかったのでしょうか?ジナーガ王国へはどの程度時間がかかるのでしょうか」
おおっと、皆んなが考えていた事を一気にいったな。
「ちょっとちょっと、チヒロ落ち着いて、私もこの食堂や受付の仕事をしてる時に冒険者から聞いた話を披露しただけだから、震源遺物少女が今どこにいるとかそういった話は分からないよ」
「そうでしたか。失礼しました」
松下さんが再び椅子に座った。
「でもジナーガ王国への行き方と、かかる時間は分かるよ。ええと、この街の港から湖の対岸にある街『ローマル』ってとこまで船が出てるからそれで渡って、ローマルから国境の街『マーシ』まで馬車で移動し、徒歩で国境を越えればジナーガ王国には行けるよ。かかる日数はここから国境までスムーズに行けて10日くらいかなあ」
結構簡単に行けそうではあるな。
「教えていただきありがとうございます」
そう松下さんがお礼を言った。
「あと翻訳の魔道具をなぜ与えなかったのかも分かるよ。あれは冒険者ギルドを介して南区の魔道具店に依頼したからね。とはいえタイミング悪く在庫が無かっただけなんだけど、君たちも説明を受けたなら知ってるんじゃないかな?愚者の覚え書きの産出って全然安定してないの。一気に何枚も見つかる時もあるし、数年産出されない事もあってね。ジナーガ王国冒険者ギルドから依頼が来た時もちょうど切らしてたみたい」
そういえば材料の調達が全然安定しないって言ってたなあ。
「だから君たちは運が良かったよ。南区のセクス魔道具店で買ったんでしょ?」
「!!!!!」
セクス魔道具店・・・だと!?
訳さなくてもほぼ変わらないじゃねーか!!
何だよセクスって!!ほとんどセクスだよ!!
セクスお婆さんなんて呼べねえよ!!
「どうしたの?急に怖い顔をして」
リオに心配された。
「あ、いや、うん。その魔道具店で購入したんだよ。運が良かった」
◇◇◇◇◇
「今は居場所がわからないけど、冒険者ギルドで依頼してくれたら探すことは可能だよ?」
ありがたい情報がリオから齎される。
「そうなんですか!ちなみに報酬っていかほどに?」
「人探しの依頼料は一律で手付け1000輪、情報が得られたら追加で1000輪だよ」
「分かりました。いま料金をお渡ししていいですか?」
「うん、じゃあちょっと待っててね。今すぐ手続きしてくるよ。代表者はジュンペーでいい?」
「ではこちらを。お願いします」
そう言ってリオに1000輪を手渡す。
「はい確かに。では少々お待ち下さい」
そう言ってリオは冒険者ギルド受付カウンターの方へと歩いていった。
◇◇◇◇◇
「で、行くんですか?」
そう奥田が尋ねてくる。
「そりゃあ行かんわけには。ただ正確な居場所が分かってからだな。隣国へ行くだけで10日って事は、情報が行き来するだけで最低20日は掛かるわけだ。ジナーガ王国内の何処にいるかは分からないけど、それを探したり確認したりを合わせると、最速でも1月はかかるんじゃないかな?」
「となると暫くはこの街の迷宮で、戦力の確認や拡充、その他の情報収集と金策ですかね?」
妥当と言える指針を奥田から語られる。
「当面はそれで行こう。他に提案とかある人は?」
元気よく奥田が手を上げる。
「はい!!可愛い服をですね!」
「それはこの後、ロッコに案内をしてもらって迷宮探索で必要な道具や装備を整える流れで購入しよう。ロッコ、可愛い服が売っている店への案内も頼むな」
「え?俺が?可愛い服の店?無茶苦茶言いますね!」
彼ならこの難題をこなせるはずだ。
「あとこの街って風呂屋ってある?」
「え?どっちのです?心を洗う方か、身体を洗うほうか」
「身体だよ!!心の方ならみんなが居ないところでこっそり聞くよ!」
ロッコに揶揄われてしまった。
「フリータイム平日朝8時から・・・」
「朝5時からだったよ!!って葵ちゃんはそういうの控えて!!」
葵ちゃんにまで揶揄われる始末。
ただ、この世界に飛ばされた当時よりは険が取れてきて良かった。
知らない世界で知らない人に囲まれてるのは大人でもしんどいからな。
暫くするとリオが戻ってきて、依頼の手続きを終えた事を教えてくれた。返答があり次第我々の誰かに連絡してくれるらしい。
そしてリオと別れて買い物へと出かけることになった。
◇◇◇◇◇
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