第24話 元王子様

「別の世界、ですか」


 リオから聞かされた話は、到底聞き流すことのできない重要な情報が含まれていた。


「そう。この世界では作り出せないようなスッゴイお宝が手に入るらしいわよ。どう?ワクワクする?」


 ワクワクどころかハラハラもヒヤヒヤもソワソワもしとるわ。


「そうですね、そんな珍しいお宝なら俄然興味も出ます。因みにそれはどういったものなんですか?」


「そのお宝は手に入れた本人は勿論のこと、周りの人間や国をも巻き込んで盛大に世間を揺るがすことから『震源遺物』って呼ばれてるんだけど、お宝には共通することが一つだけあって、魔素が全く含まれていないそうなのよ」


 ん?それが何か重要な事なんだろうか?


「この世界にある全てのものには魔素が大なり小なり必ず含まれていてね、水だったり花だったり石だったり、トロルだったりゴブリンだったりロッコだったり、それら全部に魔素があるの」


「何で魔物のカテゴリーに俺を混ぜたんだよ!」


「その理から外れた物って震源遺物でしかみられない特徴なのよ」


 なるほど、物に含まれた魔素を測定することで震源遺物かどうかを確かめられるってことか。


「で、そんな震源遺物は様々な能力を持つんだけど、私が好きな震源遺物は幾つかあって、最初に紹介するなら『白銀の駿馬』ね」


 なんだかカッコよさげな名前だな。


「その震源遺物が発見された時には、どういった能力があるかわからなかったから、迷宮の外まで運んで研究されることになったんだけど、遺物は金属とも粘土とも分からない銀色の物質に覆われていてね、初めは美術品かと思われてたの。でも研究してる最中に突然息を吹き返してね、ドッドッドッって呼吸をし始めてみんなびっくり!!研究者の一人が手綱を掴んでみたらものすごい速度で駆け出したのよ」


 銀色のスクーターかな?


「どんな名馬よりも早く駆けることのできるそれは、戦況を各地に伝える時に大活躍するだろうって言われてたんだけど、その遺物が発見された国の第一王子がこっそりと白銀の駿馬を持ち出して動かしてしまったの。物凄い速度で駆ける駿馬をうまく捌ききれなかった王子は城の壁に激突して大怪我をしちゃったのよ」


 バカ王子ってどこの世界にもいるもんなんだな。


「壁に激突したことで駿馬も死んで動かなくなったらしく、その結果を聞いた王様は大激怒し、継承権第一位の王子を廃嫡して国外追放にしちゃったの。そのおバカな元第一王子がそこにいるロッコってわけ」


「全然俺のことじゃねーよ!!」


 さっきから抜群の合いの手を入れるな。


「第一王子を廃嫡した王様は、その後すぐに病で死んでしまったんだけど、第一王子しか直系の子供がいなかったその王国は、次期国王の座を巡って内戦が勃発。国は荒廃し、民は逃げ出し、今ではもうその国は消え去ってしまったわ。その消えた王国の名前は・・・」


「ロッコなんて国の名前はねーよ!!」


 思わず拍手をしてしまった。

 この二人はこれで食っていけるんじゃなかろうか。


「たしかに震源と言われるだけのことはありますね」


「すごく面白かった!」


 隼人くんも絶賛している。


「他には、美しい音色を出す『漆黒の棺桶』や、食糧不足に喘いでいた国を救った『黄金色の種子』、目の前にあるものを全く違う色へと変化させる『万彩の銀筒』って震源遺物があるわね」


 ピアノと、とうもろこしの種と、スプレー缶かな?


「万彩の銀筒には少し面白い話があってね、その震源遺物は一つではなく複数集まったものだったの。赤く変化させる機能を持ったものや、青く変化させるものなんかが同時に発見されたんだけど、迷宮が踏破される少し前に、迷宮のすぐ近くに住んでいた炭焼き職人が全く同じものを森の中で拾っていたのよ」


 奥田と目を合わせた。


「炭焼き職人は、誰かが落とした魔道具だろうと思って街の詰所まで行って衛兵にその銀筒を届けたのね、するとその数日後に迷宮を踏破した冒険者が街へと凱旋し、手に入れた震源遺物のお披露目会を開催したの。お披露目会の警備に駆り出された衛兵はその震源遺物を目にしてびっくり仰天。先日詰所に持ち込まれた落とし物と瓜二つだったの」


 召喚される時に、迷宮内から少し外れた場所の地表に召喚されることもある?ってことなのかな?


「その出来事が広く知られると、自分も震源遺物を拾いたいと思って、地面を見ながら迷宮へと向かう人が続出したのよ。この話が元となって、落ち込んで歩いてる人のことを『迷宮へ行くような歩きで』って言われる語源になったらしいわ」


 すると自分と奥田の二人は、炭焼き職人に拾われたスプレー缶のように、本来召喚される場所とはズレて召喚されてしまったのか。

 松下さんたちと同じ場所に召喚されていたら危なかったな。今でも皆でスケルトンたちに震えていたかもしれない。


 葵ちゃんはキラキラした目で話を聞いていると、何か思い付いたかのように話し始めた。


「凄くためになりました。迷宮へ行くような歩きでロッコが賭場から出てきた。って感じで良いですか?」


「何で負けてる例えで俺を使うんだよ!」


 リオがニッコニコで太鼓判を押した。


「完璧よ!!!」


◇◇◇◇◇


 一気に色々な情報が得られたなぁ。

 どうやら自分たちは迷宮の最奥にたどり着いた時の賞品?のような扱いで召喚されてしまったようだ。

 となると稲葉姉弟と松下さんを見つけた神殿とは迷宮であり、最奥の部屋だったんだろうな。


 でもあの時、部屋の扉が開いてスケルトンが雪崩れ込んできたと言ってたな?

 もしかすると冒険者が隣の部屋で、取り巻きのスケルトンを何体も残したままボスと相打ちし、最奥への扉は開いて賞品が召喚された?そんな感じだろうか。

 隣の部屋を見にいかなくて良かった・・・、力尽きた冒険者たちの遺骸と対面することになっていたかもしれない。そしてそのショックに耐えきれたかはかなり怪しい。


 そんな考えを巡らせていると一つ気になる点が浮かび上がってきたのでリオに尋ねてみた。


「でも何で『別の世界から送られてきた』って断定できたんです?例えば未来の世界から送られてきたとか、技術の進んだ遥か遠い国から送られてきたってことも考えられるじゃないですか」


 その質問を受けてリオは胸を張って答えた。


「その事ならハッキリしてるからね。だって震源遺物本人が別の世界から来たって答えてくれたんだもん」


は?どういう事???


◇◇◇◇◇

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