第19話 NPC
「あ、あのー、すいません、ギルドマスターが赤き紅蓮の皆さんに2階の部屋まで今すぐ来るようにと言ってまして・・・」
「翻訳魔道具を通すとギルドマスターじゃなくて組合長って聴こえてくるよ?」
「そこ!邪魔しないで!」
先ほどから奥田が稲葉姉弟と松下さんに対して『冒険者ギルドで今から起こること』をダイジェストでお届けしている。
そうそう漫画や小説みたいなことは起こらないと思うんだけどなあ。
あと「赤き紅蓮」ってパーティ名は何なんだよ。どんだけ赤いつもりだ。
「ここが自由業独占組合の建物です」
そうこうやっているうちに冒険者ギルドに到着したようだ。
冒険者ギルドは石材で組まれた非常に頑丈そうな見た目をした二階建ての建物だった。入り口の扉は内側に開いて固定してある。
奥田劇場ではスイングドアだったのにな。
「スイングドアがバーン、肩で息をした男がギルドの入り口で叫ぶ、た大変だ!ダンジョンからモンスター溢れてきた!」と、さっきやっていた。残念だったな。
でも建物自体は二階建てなので「二階の部屋でギルドマスターが呼んでいる」の可能性は未だ生きている。
◇◇◇◇◇
中に入ると市役所っぽい匂いがした。
建物に入って直ぐのところに衝立が設置してあり、人を左右に振り分けているようだ。
衝立には何やら文字の書かれた掲示物が数枚貼られているが、残念ながら読むことはできない。
衝立を避けて右に進むと受付カウンターがあり、左に進むと食堂スペースへと続いているのが見える。
この衝立があるせいで「バーン、入り口で叫ぶ、た、たいへんだ」の件も防がれてしまった。気の毒に思う。
食事を摂るために皆で食堂側へと進み適当なテーブルを陣取ると、普通の飲食店と同じようにウェイトレスさんが注文を取りに来た。
メニューも何もわからなかったので、飲み物は水かお茶などの酒以外を頼み、料理には「ここにいるメンバーがそれなりに満足するものを」と曖昧な注文をしたにも関わらず、笑顔で受け付けてくれた。
料金は先払いだったので、計50輪の代金を「1枚の50輪硬貨」で支払った。
支払いを済ませた後、案内役の子供がソワソワしだしたので、ここは俺たちがご馳走するので安心してくれと伝えると、落ち着きを取り戻して笑顔でお礼を言ってくれた。
◇◇◇◇◇
運ばれてきた料理は、大皿に盛られた大量の薄切り肉料理。これはタレをかけて食べるみたいだ。
あとは根菜を中心とした山盛りの野菜。強引にカテゴライズするなら野菜炒めと言えるもの。
そして各人に渡された魚のスープとピッチャーに入った水。籠に盛られたパン。
中々に悪くないんじゃなかろうか。
パンは少々硬いが「そのまま食べたら歯が折れるぜ!」などと語られるようなものでもない。
肉料理に関しては、何の肉を使っているのかわからないこと以外には不満点はない。
「ゴブリンの肉って美味しいですよね」とか言ってこない限り幾らでも食べられそうだ。
現に皆も嬉しそうに食べているし、案内人の子供にいたっては一心不乱に食べ続けてる。
多分欠食児童なんだろう。もし今後も街の案内が必要となった際には、この子を探して案内をお願いしよう。
そうなってくるといつまでも「案内役」呼びでは申し訳ないので名前を聞くことにした。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったね。俺の名前は純平。君の名前を教えてくれるかい?」
自分だけ仲間外れは嫌なので、シレッと下の名前で名乗った。
「はい、私の名前は楓(かえで)と言います」
「!!!!」
全くなんて素晴らしい名前だろうか!日本語に置き換わっても違和感の名前!もしかするとあのお婆さんだけが特別だったのかもしれないな。水辺の秘め事さんよ。
「俺たちの故郷では女の子に多い名前だね」
「そうでしたか。私も女です。この国では男に楓とつけることはありません」
ついでに性別も知ることができた。髪がボサボサで細身な子供だったこともあり、今まで性別の判断がつかなかったのだ。
ここで一つ思いついたことがあったので、ついでに少し確認してみることにした。
「楓ちゃん、今から自分の名前だけを一言喋ってもらえる?」
「楓」
「奥田さん、いま彼女はなんて喋った?」
「ええっと『オサート』って聞こえました」
これでこの国の言葉で「楓」を表す言葉をなんて発声するのかが分かった。
「今から俺が話す言葉が聞き取れるか教えてくれ。・・・。オサート」
「楓という、私の名が聞こえました」
「なるほどなるほど、こうすれば口にするのを躊躇うような言葉で翻訳されちゃったとしても大丈夫ですね」
明日からは魔道具屋のお婆さんの名前もちゃんと呼んであげれそうだ。
その後は皆に交代で腕輪を装備してもらい、オサートちゃんとの挨拶を交わしてもらった。ちなみにオサートちゃん1人に腕輪を装備してもらえばそれで済むのだが、腕輪はまだ買い取ったものではなく貸与えられたものなので、パーティメンバー以外に渡すのは止めておいた。
他にも「英語で話す」「相手が知らない言葉を会話の中に混ぜる」「頭の中では意味のある言葉をイメージしながら、口からは奇声を発する」といった様々な検証を行った。
◇◇◇◇◇
一通りの検証を終えてから皆と雑談をしていると、ガラの悪そうな大男が食堂内へと入ってくる様子が視界の隅に映った。
男は食堂の中を一度見渡してから我々の存在に気付くと、眉を八の字に歪ませ「いかにも人を小馬鹿にしてます」な表情を作りつつこちらに向かって歩いてきた。
おいおい、まさかな・・・。
大男は我々のテーブルの位置までくると意外と甲高い声で話しかけてきた。
「ああーん、ここはガキの来るような場所じゃねえぞ!怪我したくなけりゃさっさと消えろや!それとも何か?自由業独占組合はいつの間にかガキのお守りまで取り扱うようになったんかー??」
「!!!!!」
コッテコテなテンプレの人だーー!!!
◇◇◇◇◇
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