第18話 ファッション宿
予めお婆さんに聞いておいた宿屋街へと赴き、今晩の宿泊先を探していると、客引き?をしていると思われる子供から声を掛けれた。
「お兄さんたち自由業の人ですよね?私は自由業の人向けの宿を案内できます」
自由業って、たしか冒険者っぽいことしてる人の事だよな。まだ詳細は確かめれてないけど。
なんだかヤクザっぽい響きが含まれるので、せめて「フリーランス」とかに訳されてくれないかな。
そう翻訳魔道具の性能に不満を感じていると、奥田が横から話しかけてきた。
「その子はなんて言ってるの?」
ああそうか、今はまだ自分しか翻訳魔道具を装備していないことをすっかり忘れていた。
「この子は冒険者向けの宿へ案内できるそうだ」
「ちょうど良いじゃないですか。案内してもらいましょうよ」
勝手な偏見ではあるのだが、あまり裕福そうに見えないこの子が案内する宿なんて、なにかしらの瑕疵があったり、連れて行かれた先に怖いお兄さんが待ってたりするんじゃなかろうかと考えていた。しかし皆からの反対も特にないようなので、声を掛けてきた子供に案内をお願いすることにした。いざとなればガッツのある彼女に任せよう。
◇◇◇◇◇
モヒカン達がたむろする袋小路に誘導されることもなく、大通りから一本入った場所に建っている真っ当そうな宿へと案内された。
宿の外観は周りの建物と見比べても立派で、漆喰の白い外壁からは清潔さも窺えた。
「じゃあここで待っててくれる?私たちがこの宿に決めたらお駄賃を渡すからね」
案内してくれた子供にそう伝えると、皆を連れ立って宿の中へと移動した。
宿に入ってすぐの場所は食堂になっており、その食堂の奥に据えられたカウンターに人がいたので声をかけた。
「どうもいらっしゃいませ、ご宿泊ですか?それともご休憩ですか?」
あ?え?ご休憩?え?そういう感じの宿なの?愛を語る系の宿なのここ?
後ろで待つ皆んなには、受付係の言葉は翻訳されていないので、一声かけた直後に突然焦り出した様子を不思議がられてしまった。
しどろもどろになりながらも受付係と話をすると、いわゆるそういった目的で宿を利用することはどの宿でも当たり前のことらしい。
また、受付の第一声も定型文的な台詞だったらしく、自分たちの姿を見て特別そう言った言葉をかけたものでもなかった。
そして当初の目的であった宿泊のことについて話を聞くと、この宿は自由業徒党に向けて作られた宿であり、寝具などが用意されていない代わりに、五、六人が利用できる大部屋を比較的安価で貸し出すのを売りにしているそうだ。
この話を皆に伝え相談したところ、我々のスタイルに合致していると結論がなされたので、この宿に決めることにした。
ちなみに一泊の費用は一部屋で50輪だった。
受付に数泊分の料金を支払い、外で待っている子供の元へ向かった。
「案内してくれてありがとう。この宿に決めたよ。ええと案内代っていつもどれくらい?」
「1輪」
そう言うので、子供の手に1輪銅貨2枚を握らせると、はにかんだ笑顔を見せてくれた。
「そういえば君はこの街の色々なところを案内はできるかい?」
「できます」
「それならちょうど良い。お兄さん達はこの街に来たばかりでね。暗くなるまでには終わると思う。5輪でどうだい」
「わかった、案内します」
一旦借りた部屋へと行き、余計な荷物は全て部屋の中に置いていくことにした。
奥田が背負う大剣は余計な荷物に含まれると思うのだがどうだろう。大剣を使う事態に遭遇しなければいいなと思いつつ、一行は再び街へと繰り出した。
◇◇◇◇◇
今更ながらこの世界の方角を知れた。
「それは北区にあります」
そう案内人に言われたとき、そもそもこの世界の方角を知らないことを思い出し、良い機会なので方角について説明してもらった。
これまでの会話の中では、暫定的に太陽が昇ってくる方角を東、沈む側を西としていたが、案内人の説明を聞くに、この世界でも地球と同じであることが判明した。
今、一行がいる場所は街のほぼ中心。
目の前の交差点を南にいくと、街に入ってきたときに潜った南門へと辿り着く。お婆さんのお店もその近くにある。
南側は割とハイソな人々が集まっているらしい。
北へ行くと職人や自由業の方々が集まる北区があるそうだ。
北門を抜けてさらに進んでいくと、件の迷宮があるらしい。
北西には港湾施設が集まっており、得られた情報を簡単に纏めると「北方向には喧嘩っ早い連中が沢山いるから怖い」という結論に達した。
「じゃあ早速『おいおめえら見かけねえ連中だな。ここはガキの遊び場じゃネェぞ!』を体験に行きましょうよ」
奥田がそう提案してくる。
「先に何か食べないか?」
「そういえばお茶くらいしか口にしてないですね」
「よし、どこかのレストランに行くか」
こちらの要望を案内人に伝えると、自由業独占組合には食堂が併設されているので、二つの要望が同時に叶えれるのではないかと提案を受けた。
実のところ冒険者をしてお金を稼ぐのは、今の我々に合っているのではないかと考えていた。
元々は平和な日本で暮らしていたので、狩猟だとか害獣駆除といったものとは縁遠かったが、この街にくるまでの道中で結構な数のゴブリンを倒してきたのだ。
しかも全ての戦闘が瞬殺。
このような結果を経て「他のモンスター相手でも案外いけるんじゃね?」と皆が薄ら感じている。
それを確かめるためにも、冒険者としての活動ならびに迷宮探索を体験してみたいとは思っていた。
喧嘩っ早い連中が多い点は気がかりではあるが、一度行ってみることにしよう。
こうして一行は冒険者ギルドへと向かった。
◇◇◇◇◇
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