第14話 Go!Go!魔っ素ー!

 すっかり自分の世界に入り込んでしまった葵ちゃんを異世界へと呼び戻し、倒したゴブリンの様子を確認するため川の対岸へ渡った。


・・・・・。


「こうみると映画の小道具のようにも感じるな」


「まだ温かいから恒温動物のようですね」


 躊躇いもなくゴブリンの死骸に触れた奥田に少し感心する。後で手ぇ洗いなよ?


「ちゃんと生殖器があるってことは、有性生殖で増えるってことか」


 近くに落ちていた枝で腰蓑を持ち上げて確認した。


「つまりは女性が囚われての苗床ルートあり、と」


 異世界先生の奥田がそう推察する。


 隣で松下さんも黒焦げゴブリンを枝でつついていた。どうやら先ほどの葵ちゃんが放った熱光線では、ゴブリンの身体の中までこんがりと焼くようなことはなく、表面だけが焦げているようだった。


 もし異世界の子供達の誰しもがあのような熱光線を撃てるのだとしたら、この世界の社会情勢ってどうなってるんだろうか。

 子供の喧嘩で火球や熱光線が飛び交うとんでもない治安になってたりして。銃社会も真っ青だ。


 子供に限らず、工作員なんかが相手国の城下町に侵入して、火魔法で放火しまくったりしたら一気に国力を低下させれるだろうし。

 何かしら対策がなされているのだろうか?

 人里を見つけたらぜひ確かめてみよう。


「でー、もしその苗床のために人が攫われるような事があるなら、近くでゴブリンの巣を捜索した方がいいのかな?」


「あくまで可能性の話ですので、今回は森を抜けることを優先させましょう」


 その後もゴブリンの死骸を検証を続けたが、これといって新しい情報は得られなかったので、再び森の端を目指して移動することとなった。


「そういやゴブリンの死骸は消えなかったな」


「あの神殿がダンジョン判定だったんですかねえ?」


 奥田的には『ダンジョン=死骸が消える場所』という認識らしい。先生がそう仰られるならそうに違いない。


 そこに葵ちゃんが意見を出してくれた。


「あの骸骨は召喚魔法で呼び出されたという線はありませんか?ですので倒した後は消え去る?みたいな」


 お、葵ちゃんも異世界イケる口かな?って、あの杖を作り上げるくらいだからファンタジーは履修済みだよね。


「ボスの取り巻きとして召喚されたやつかもね」


 いずれあの場所を再調査するときに色々と判明することだろう。


◇◇◇◇◇


「そういやあの熱光線魔法使ったときって魔石消えた?」


「ゾルトラークのことですか?」


「あ、ああうん、そう、ゾルトラーク」


 葵ちゃんの話によると、熱光線1発で魔石1つを消費したらしい。かなりコスパが悪いけど『熱光線を控えて火球で戦ってほしい』とは言いづらい。

 何せ魔法名まで付けてる(拝借させていただいてる)くらいだから相当な拘りがあるのだろう。


「え?1発で1個使っちゃうの?それだとフェルンが得意とする素早い魔法構築による連射ってイメージと乖離しちゃわない?」


 奥田がブっ込んだ。


「効率のいい方法が判明するまでは、火球を素早く撃った方がイメージに合うと思うよ」


「確かに素早く連射はできないですね・・・、わかりました、他の方法が見つかるまでは火球を使ってみます」


 さすがイセセン!速攻で解決してくれた!!

 ヒュー!頼りになるぜ!!


◇◇◇◇◇


 その後も数回ゴブリンと遭遇したが、全て鎧袖一触で灰にした。

 ラストヒット経験値総取り説に基づいて、攻撃担当を都度交代しながら倒していたが、実際に経験値が効率よく分配されていたかは勿論分からない。そもそも経験値って何だ?


「魔素ですよ。モンスターが倒されたときに、体内に蓄積されていた魔素が体外へと放出されるんです。それが近くにいる人たちへ吸収されていくのでパワーアップに繋がります」


 でた魔素。


「だとしたら、遠距離から敵の群れの先頭にいる奴を倒したときには、近くにいる他の敵へと吸収されるんじゃないのか?」


「それはあり得ません。同族の魔素は吸収できないからです。それが可能なら同族で殺し合いが発生して種族が滅んでしまうんです」


 まるで全てを理解しているかのように説明してくれて心強い。真実はともかく、説明によって納得さえできればそれだけで戦いやすくなるし、検証も捗る。


「じゃあなんで攻撃する人を切り替えてるんだ?」


「もしかすると、この世界の理ではラストヒットを取った人へ優先的に吸収されていくかもしれないからです」


 なるほど。理ね。そういう理もあるよね。


 そんな魔素講義を受講していると、ついに森の終わりが見えてきた。


◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る