第13話 100人乗っても大丈夫
我々転移者一行は遠征を開始した。
目的地は森の外、ルートは川に沿って下るだけ。
食料は基本的に現地調達で賄い、不足するようなら電車内で若干数手に入れたレトルト食品で繋いでいく予定だ。
一番先頭を歩いている奥田の鞄ははち切れんばかりに膨らんでおり、一体何を持ってきているのか想像できない。
それに加えて件の大剣もしっかりと背負っており、その小さな身体に似つかわしくない大荷物を運ぶ姿は見ていて心配になる。
多少の荷物はこちらで預ろうか?という提案をしてみたが「魔素が云々なので大丈夫」という説明が返ってきた。魔素すげえな。
出発してから今日で2日目、食料調達のための釣りを毎日していると、釣れる魚が徐々に変化していることに気付いた。
「なんかもう普通のマスだな」
洞穴の拠点近くで釣れていたピンクのマスは、拠点から離れるにつれて段々とピンク色が薄くなり、特徴的だった長い背ビレも短くなっていった。
今いるこの場所で釣れたマスは、地球で釣れる姿とほぼ変わらないように見える。
この発見を奥田に伝えたら「魔素によって云々」という仮説を聞かされた。俺もそうだと思ってたんだ。魔素だよ魔素。
◇◇◇◇◇
遠征を開始してから3日目。
これまでに大きなトラブルはなく、このまま順調に進めば今日か明日には森の終端に辿り着けるはずだ。
昼食の片付けを終え、皆が食休みのためにそれぞれの時間を過ごしていた。
隼人くんに目をやると、岩に立てかけた丸太に向かってナイフを投げているのが見えた。
本人曰く『手裏剣の練習』らしい。
彼に聞いてもやっぱり地球にいた時よりも思い通りに身体が動かせるようで、今も20mほど離れている丸太に対して、何本ものナイフを突き立てていた。魔素だな。
そんな折、奥田が落ち着かない様子で声を掛けてきた。
「先輩!!あっちからなんか声が聞こえる!」
「どうした!魔素か!?」
「魔素は関係ないです!!」
奥田が指差す方向を見ると、対岸にある茂みが音を立てて揺れており、奥からはギャーギャーと猿の叫び声のようなものが聞こえてきた。
「みんな、注意して」
腰のベルトからサーモンロッドを抜き出して強く握る。
揺れる茂みを睨みつけること数瞬、中からは3体ほどの物影が飛び出してきた。
「ついに出てきましたねえ」
奥田が引き攣った笑みを浮かべて言う。
って、なんで大剣構えてんの!?物理でいくつもり?
80cmほどの体高。
その体躯に似つかわしくない大きな手と足。
地面に両手が付きそうなほどに丸められた背中。
申し訳程度に身体に巻き付けてある動物の毛皮。
頭に毛はなく耳は尖っており、全員がその手に何かしらを握っている。
「どうみてもゴブリンですね」
彼我の距離は15mほどあり、その中間は流れの早い川で隔てられている。
「願ってもない状況だな」
この位置関係なら、ゴブリンたちが近づいてきても十分な余裕を持って対処できるだろう。
つまりは基本方針に従えるというわけだ。
「では、あーあー」
・・・・・。
「初めまして!!私はこの川の上流から来た長野と申します!!皆さんは何をなさっているのですか?」
川の音に負けないよう、大きな声で挨拶をし、彼らの反応を見守った。
・・・・・。
「ずっとギャーギャー言ってるだけですね」
「あれが彼らの言語かもしれない。今は相談事をしているんじゃないか?」
「あの身長で川に入ったら、普通に流されていきそうですね」
しばらく様子を見るも、一向に事態は進まない。
仕方がないので水に触れるギリギリまで近づいて挨拶をしてみる。
「皆さんこんにちは!そこで何をなさっているのでしょうか!!」
「・・・・・」
するとゴブリンの一体がおもむろに河原の石を拾ってこちらに投げつけてきた。
「うわっ、あっぶな」
投げつけられた石は大きく外れてどこかへ飛んでいく。
「どう思う?」
「普通に敵性モンスターだと思います」
「異論のある人はいますか?」
「「「ないでーす」」」
大きく息を吸い込む。
「先ほどの行動は、我々への敵対行動とみなす!その命を持って償ってもらおう!!」
そう言うや否や、一番右端にいたゴブリンの額にナイフが生えた。
「え?」
同時に視界の左側を眩い閃光が走り、左端と中央にいたゴブリンが一瞬にして消し炭になった。
「え?」
振り向くとそこには、ナイフを親指と人差し指で挟んで構える隼人くんと、杖を腰の高さで地面と水平に構えた葵ちゃん姿があった。
「・・・・・ゾルトラーク・・・・・」
そうボソッと呟いた葵ちゃんに表情は無かった。
◇◇◇◇◇
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