第8話 挨拶は大事
(先輩、先輩おきてください)
「んー、ん?」
眠り始めてからまだそれほど時間は経ってないはずだが、奥田が囁き声で話しかけてくる。
寝る前のトイレに行き忘れたのかな?
(何か変な音が聴こえてくるんですよ)
(変な音?)
上半身を起こしてから頭を軽く振り、変な音とやらを確かめるために耳をすます。
すると確かに彼女の言う通り、何処からかガシャガシャといった、自転車を倒したときのような音が微かに聴こえてきた。
「んー?なんだろこれ?異世界酔っ払いが、異世界駐輪場で暴れてるとか?」
「つまりはこの近くに異世界駅前があるってことですね?是非行ってみましょう」
駅や駐輪場は絶対にないだろうけど、この音は確かに気になる。
もし危険な生物や古代兵器が発する音であった場合にはこの寝床を引き払う必要も出てくるだろう。
何にせよ音の正体を確かめなくては気になって寝れん!あと普通に怖い!
◇◇◇◇◇
謎の音は洞穴の奥の方から断続的に聴こえてくるようだ。
こんなことならバリケードを作る前に調査しておくべきだったなと、今更なことを考えながらバリケードの一部を崩す。
右手にはサーモンロッドとペンライトが握られており、左手は敢えて空けてある。
壁や天井に手をつきながらでないと進めないからだ。
ここの洞穴は自然洞らしく、地面の凹凸や起伏は激しいし、身を屈めないと通れない隙間などもあり、ゲームに出てくる洞窟のような、真っ平らな地面じゃないことが恨めしかった。
ただ幸いなことに、道中に分かれ道などは見受けられず、音のする方へと迷わず進めているように思う。
途中、奥田が水たまりに足を突っ込んだこと以外は特に問題はなく、音の出どころと思しき場所へと到着した。
◇◇◇◇◇
「あそこから音が聴こえるな」
二人の位置から10mほど先をペンライトの光で指し示すと、そこには地面から光が立ち上っている様子が確認できた。
「すでにめっちゃ怖い」
「私もさっきから手汗がヤバいです」
ここまでくると件の音はハッキリと聴こえており、自転車を倒した時の音などではなく、金属と金属とがぶつかりあっている音だと分かる。
更に歩を進めると、光る地面だと思われていたものは、実際には直径50cmほどの穴が地面に開いていたものだと判明した。
「これ絶対何か動いてるものがいるよ」
「つ、遂に初戦闘ですかね・・・」
深呼吸を数回繰り返して鼓動を落ち着かせる。
・・・・・。
心拍数がある程度まで戻ったのを感じ、奥田と目を合わせて一度だけ頷く。
「よし、見てくる」
腰を少しだけ落とした構えを取り、忍び足で穴へと近づき中をそっと覗き込む。
っっっ!!!!!!!!
(ちょちょちょちょちょちょ!!やばいやばいやばい!あかんあかんあかんて!!)
音を立てないように穴から後ずさり、振り向いて奥田を手招きする。
(下、やばい、めっちゃ、おる、やばい)
声は出さずに口の動きと身振り手振りだけで、穴の先がいかにヤバいのかを伝えようとした。
しかし何を見て慌てているのかは全く伝わらなかったため、奥田も穴へと近づき中を覗き込んだ。
っっっ!!!!
穴の中を覗き込むと、そこには人工的な部屋があり、中には大量のスケルトンが蠢いている様子が見えた。
一旦二人は穴から大きく距離を取って息を整える。
「遂にいたな・・・」
「初のモンスターですね」
おそらくは存在しているであろうと予想はしていたが、実際にモンスターを目の当たりにすると想像以上に動揺した。
「実はモンスターではなく、骨人族?みたいな種族ってことはないんですかね?」
「問答無用で殺したら、実は温厚な骨人族さん達でした、だったらものすごく罪悪感に苛まれそう」
「一度は話しかけてみます?」
「そうするしかないよなあ、で、周りのスケルトンたちと対応の相談をするような素ぶりをみせるなら亜人種って認識でいこうか」
異世界歴1日目の我々には知識が不足している。
今回はスケルトンだが、きっとゴブリンや半魚人が現れてもまず一度は話しかけてみるだろう。
話しかけることによってこちらの命が危険にさらされることになったら本末転倒だが、安全を確保した上で話しかけれそうならそうするべきだと考えている。
でないと思いがけない形で「殺人者」になってしまうかもしれない。
出来ることなら敵性生物かそうでないかの知識を予め学んでおきたい。
今回見つかった穴の先にある部屋はどう見ても人工物だ。つまりはこの世界には知的生物が存在していることを示している。
もしかすると神など超常の存在が作り出したものかもしれないが・・・。
「・・・よし、もう一回見に行きましょうよ」
そう言うと彼女は穴の方へと振り返った。
◇◇◇◇◇
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