第9話 アカウント凍結
二人揃って這うような体勢で穴へと近づき、穴の先にある部屋をじっくりと観察してみることにした。
どうやらこの穴は下の部屋からすると、天井と壁面が交わる『回り縁』にあたる部分に開いた穴だということが分かる。
穴から部屋の床までは5mほどの高さがあり、中にいるスケルトンは登ってこれそうにない。ものすごいジャンプ力があれば別だが。
(中、明るいですね)
(洞窟の床が崩れて、下と繋がったのかな?奥の方までは見れないな)
覗き込んでいる位置からは部屋の端までは確認することができない。
(ちょっと足おさえといて)
穴の中に上半身を突っ込んで、部屋の奥まで確認してみることにした。
部屋の全体的な大きさは学校の体育館程度あり、単なる部屋というよりかは神殿と思しき装飾が随所に刻まれている。
壁面に沿って石柱が等間隔で並んでおり、ギリシャのパルテノン神殿をすっぽり地下に埋め込んだような印象だ。
何より目を引くのは部屋の中央部に鎮座している大きな金属の箱。
どうみてもあれは『電車』だ。
◇◇◇◇◇
身体を穴から戻し、部屋の中で見たものを奥田に伝える。
「中に電車があった」
「え??やっぱり異世界駅前だったんですか?」
「いやそうじゃない、多分だけどあれは俺たちが乗ってたやつだ」
この異世界へと飛ばされる前、二人が乗っていたローカル鉄道の車両が部屋の中央付近に存在していた。
車両の外装には特徴的なツートンカラーのデザインがなされていたため間違いはないだろう。
「スケルトンが電車を取り囲んでガンガン叩いてたんだよねぇ」
「あー、その音がずっと聴こえてたんですね」
目視出来たスケルトンの数はおおよそ50体ほど。電車の反対側は見えなかったので正確な数は不明。電車を叩いてる音からして、スリムな見た目を裏切る超絶パワーを持っているようには思えない。むしろ非力そう。
また電車を叩いていない個体も数多く、何を目的として行動しているのかは判断がつかなかった。
「骨人族特有の歓迎式典って可能性は?」
「いやいやいや、あれは流石に攻撃行動でしょ」
ここで穴に蓋をして寝床へ引き返すという選択も考えられなくはないのだが、以前奥田とした会話の中で一点だけ気になるものがあり、それを確認せずに引き返すことは躊躇われた。
「車内に人っていました?」
「それがなあ、距離があってよく見えなかったんだよ」
飲み物をこぼした弟とそれを諌めた姉。もしかすると未だ車内に取り残されている可能性。
その可能性を無視して引き返すことは二人の性質からすると無理からぬものだった。
「んじゃ腹括って電車の確保と行きますか。ま、こっちにはメラゾーマがあるし何とかなるでしょ」
「あれはメラゾーマではない・・・メラだ!」
◇◇◇◇◇
とはいえ部屋の中に突入してスケルトン相手に無双をするようなことはしない。
穴から顔だけを覗かせてのチキンプレイが主な作戦となる。
「んじゃ始めるぞ」
奥田に目配せをしたのち、穴の中に顔を突っ込み叫ぶ。
「こんにちはー!!!皆さんは何をなさっているんですかー!!!」
大きな声で元気に挨拶。ファーストコンタクトの基本に沿っての行動。何も間違ってはいない。
声に気づいたスケルトンがガシャガシャと音を立てながらこちらに向かって歩いてくる。その速度はあまり速くない。
(骨なのに聴覚あるんだな)
穴の真下まで来たスケルトンたちをじっくりと観察すると、手に持った武器はてんでバラバラであることが窺える。
ボロボロの剣や槍、木製の棍棒を持っているものもいれば、素手のものもいる。
なかには鍋やフライパンといった調理器具を持った個体がいることも確認できた。
「もしかして食事の支度をしてる時間帯だったのかな?」
「日を改めて後日お伺いするべきでしょうか?」
二人で軽口を交わしていると、スケルトンの一体がこちら目掛けて何かを振りかぶっているのが見えた。
「下がって!」
咄嗟に奥田の後ろ襟を引っ張りながら身体を隠した。
直後に穴のすぐ先から何かをぶつけられた音が聞こえてきたので再びそっと顔を出す。
「あれか、あそこに落ちてるナイフを投げつけてきたんだな」
「全然ここまで届いてなかったっぽいですね」
やはりスケルトンたちはその見た目のとおり非力であることが窺えた。
「さきほどの行動は我々に対しての敵対行動とみなす!」
「んじゃ異世界初戦闘やっちゃいますか!」
奥田が穴の真下に向けてサーモンロッドを向けたのをみて、あわてて身体を引っ込める。
「いきますよー!Fire ball!」
「ちょ、発音いいなオイ!」
杖の先から飛び出した火球は、一番手前にいたスケルトンの一体に命中したかと思うと、周りにいたスケルトンをも巻き込んで盛大に爆散した。
「ハハッ!これめっちゃ楽しい!」
満面の笑みを浮かべている奥田に驚きつつも、着弾地点の様子を確認すると、バラバラになって動かなくなったスケルトンの骨片が辺りに散らばっているのが見えた。
「一定時間経つと寄り集まって復活とかしないかな?」
「聖属性じゃないと完全処理はできない、的な?」
時間にして1分ほど。しばらく待ってみてもスケルトンが復活する様子はなく、バラバラにすることで倒せるように思えた。実際には頭骨を破壊すると倒せる、みたいな条件かもしれない。
そうこうしてる間に、電車を取り囲んでいたスケルトンたちも爆発音を聞きつけて穴の真下へと続々と集まってくる。
「これ放置上げできそうですね」
「何を上げるんだよ」
「レベル?」
この世界にゲームのレベル的なものが存在しているかは不明だが、部屋の中にいるスケルトンたちを安全に処理できることは判明した。
このまま続けてスケルトンを殲滅することにしよう。
「ネトゲなら速攻で修正パッチあたりそうだよな」
「地形ハメ等のバグ不正利用はBANされますよ」
「BANされることで元の世界に戻されるならそれはそれで助かるけど」
◇◇◇◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます