第7話 理解者

 魚の鮮度が影響しているのではないか。焼き加減が悪かった。詠唱の言葉に気合いが込められていなかった。魚の個体値によるものだから、厳選された6V魚を釣る必要がある。などなど、様々な要因を出し合ってみるも、いま一つしっくりとくる考えは出てこなかった。


「あんな大きさじゃ全然気持ちよくなれないですよ!!もっと太くて立派なやつがいいです!」


「その姿で下ネタを言うのは・・・」


「火魔法の話をしてるんですよ!!」


「知ってるよ!」


 空を焦がすような火柱を一度は見てしまったせいで、再現可能な1mほどの火柱では全く満足することができず、威力が減衰する原因を特定できない事に二人は少しだけ苛立ちを覚えていた。


 焚き火の前にしゃがみ込み、ぼんやりと炎を眺めながら手に持った枝で炭をつつく。その時、今までの癖で無意識のうちにタバコを咥えて火をつけ盛大に咽せる。

 同じ失敗を重ねる間抜けっぷりに自分のことながら凹む。


・・・・・。


・・・・・。


・・・・・?


「「あっ!!!」」


◇◇◇◇◇


 最後の要素はきっとこのタバコだ!

 

 タバコを焚き火の中へと放り込み、続けてピンクのヒレ、魚の内臓を投入してから枝を差し込み詠唱を行うと、見事10mを超える火柱を発生させる事に成功したのだった。


◇◇◇◇◇


 再現実験の成功で一気にテンション爆上がりした二人は、時間を忘れて更なる追加検証を重ねた。


 追加検証で得られた結果は以下のとおり。


・魔法は奥田、長野の両名ともに発動可能


・実は材料を火に焚べる必要は無い


・魚の内臓が魔法発動に必要な素材というわけでは無く、内臓の中にあった小指の爪ほどの大きさをした石、おそらく魔石と思われる物質が必要となる


・魔石、ヒレ、タバコが枝に触れていないと発動できない


・火柱魔法以外にも、火球や灯火なども発動できる


・火にまつわる魔法以外は発動できない


・発動する魔法は、イメージを変化させることで規模の調節が可能


・10mクラスの火柱を発生させた場合には、1発で魔石が消失する


・テニスボールサイズの火球なら10発〜20発ほど発動可能であり、魔石の個体差で発動可能数が変化する


・タバコとピンクヒレは消失することがない


・木の枝を直接握った状態でしか魔法は発動できない


・魔石は電池、枝は導線、ヒレは変換器、タバコはブースターを担っている(と、思われる)


・火のブースターとなりえるアイテムは、タバコとライター以外には見つかっていない(火に纏わるアイテムが他に見当たらないため検証不可)


◇◇◇◇◇


 実験で判明したことを踏まえ、手頃な木の枝に、魔石、ピンクヒレ、タバコを括り付けた「マジカルサーモンロッド」が爆誕した。


 タバコ自体の耐久力は低く、今後補充することは困難であるということから、木の枝に溝を掘り、その中にタバコを挟み込んでビニールを巻きつける形で一旦は落ち着いた。


「これがあれば狼や熊程度なら対処できそうだな」


「地球の熊ならそうでしょうけど、異世界熊は火の玉を飛ばしてくるかもしれませんよ?」


 そう、この世界の動物がいかなるスペックなのかが未だに不明なのだ。


 今日のところはマスと川虫くらいしか動物に触れていないが、たまたま出会わなかったのか、それとも動物が少ない世界なのかは分からない。


 また今回我々が手に入れた魔法の威力は、この世界でどの程度なのかの判断基準がほしい。


 「え?30mの火柱しか出せないんですか?草」だったりしたら目も当てられない。


◇◇◇◇◇


 実験に夢中になっていたら、あっという間に日は落ちて外はもう真っ暗だった。


 洞穴の一室に釣り用のレインコートや、仕事で使っていたクリアファイルを何枚か敷き、その上に着替えを並べて寝床を作る。


「寝る前にこれ使いなよ」


 鞄の中から取り出したボディシートを奥田へと差し出す。


「ありがとうございます、向こうで身体拭いてきますね、覗いてもいいですよ」


「おう、気が向いたらそうするよ」


 そう軽口で返答し、奥田の消えた方向を見ながら考える。


 いきなりこんな世界に飛ばされて、はたして彼女は大丈夫なんだろうか?

 雰囲気が暗くならないようにわざと下ネタをばら撒いているのではなかろうか?

 日本に帰りたくて精神に負荷はかかっていないだろうか?

 今は魔法という現象によって楽しく過ごせているが、今後も維持できるだろうか?


 色々な考えが頭の中でぐるぐると回る。


◇◇◇◇◇


 暫くすると、奥田が戻ってきた。


「先輩、身体を拭き終えたシートっていります?」


「貰っておくよ、そこのビニール袋に入れといて」


「え!?本当にいるんですか?嗅ぐんですか?何なら処理のお手伝いしましょうか?やっぱ男子高校生ですもんね!」


 とんでもない勘違いをしている彼女に事情を説明する。


「変な想像は止めろ、ブースターだよ」


 どうも地球産の物質だけがブースターになりえる可能性を感じるため、清拭を司っているであろうボディシートは、今後入手するかもしれない回復魔法や生活魔法的なもののブースターになるのではと考えていることを説明する。


「なるほど、そういう理由だったんですね、ただまあこういった緊急事態ですし、遠慮せずいつでも気軽にご用命下さい」


「お、おう、理解がありすぎて返答に困る」


「一人で済まそうとコソコソ隠れるように森の中に行き、ズボンを下ろしたタイミングで狼に襲われるなんてことがなくもないですからね」


「なるべく気をつける・・・」


 ケラケラと笑う彼女に背を向けて身体を丸める。


 明日から始まるであろう、異世界の本格的な調査に万全な体調で臨む為にも、あまり色々と考えないようにしながら眠りについた。


◇◇◇◇◇

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