第6話 今のはメラゾーマでは無い

 明らかな超常現象を目の当たりにした二人の興奮は最高潮。

 意味不明な言葉を発しながらの踊りが約三分間続いた。


 長野が先に冷静さを取り戻し、未だ興奮したままの奥田の様子を窺うと、手に持った枝を振り回しながら川に向かって何やら叫んでいる。


「ファイヤー!ファイヤーボール!!キャンプファイヤー!!火柱よ、ここに顕現せよ!イオナズン!!」


 うっかりイオナズンがでちゃったら大変な事になるだろうが。


◇◇◇◇◇


 火柱が出た時のことを思い返す。


 奥田が枝で焚き火を、もう少し正確には焚き火の中で燃えている薪や炭、焼き魚の残骸をつつきながら「キャンプファイヤーみたいに派手に燃やしましょう」的なことを発言していた。ふむ。


 未だに川に向かって奇行を繰り返している奥田を呼び戻し、ちょっとした再現確認をお願いする。


「奥田さん、ちょっと焚き火の燃えかすに、手に持った枝を差しこんで、火柱が出た時の台詞を口にしてみてくれない?もちろん燃え盛る火柱をイメージしながらね」


「そ、それってさっきみたいに吹き飛ばされろってことですか!?」


「多分大丈夫だと思う」


「本当ですかぁー?」


 訝しむ奥田に釣り用サングラスと帽子、不織布マスクを手渡し、念の為にウインドブレーカーも羽織ってもらう事にした。


 更に奥田は鞄の中からゴソゴソと雑誌を取り出し、腹部を守るように服の中へと仕込んでいた。昭和のヤクザかな?


 一通りの準備を終えた奥田は、焚き火の跡地付近に伏せて待機した。


「じゃあいきますよー!」


 手に持った枝を焚き火跡に差し込んで顔を伏せた。


「キャンプファイヤーみたいに激しく燃え上がれー!!!」


・・・・・・・・。


・・・・・。


・・・。


「ふむ」


 焚き火跡からは火柱が現れる事はなく、何かしらの条件が不足しているという結果を得ることができた。


「よーし、このまま条件を付け足していくぞ!取り敢えず魚をあと何匹か釣ってくる!」


◇◇◇◇◇


 追加の魚を数匹釣り上げて洞穴前に戻った二人は、火柱が立ち上った状況に至るまでの条件を順に試していく事にした。


①ただ薪が燃えてる所に枝を差し込んで「激しく燃えろ、キャンプファイヤー」的なことを発声する


 これはそもそも我々には、既存の炎を強化する能力が備わっているのではないか?という検証に当たる。


 しかし結果は不発。


②おにぎりを食べた後に①を行う


 こことは別世界の物質である「おにぎり」を体内に取り込んだ状態で、魔素が漂う世界(勝手な想像)の炎にアクセスする事で、強力な炎を生み出せるのではないか?といった検証。


 明日食べるためにとっておいたラスイチのおにぎりを、無理矢理飲み込んでいる奥田を見ると少し気の毒に感じる。

 しかも見た目女児なせいで、より胸が痛む。


 だがしかし、奥田の苦労の甲斐なくこれも不発に終わる。


③焼き魚を食べた後に①を行う


 異世界の生物を食べる事で体内に魔素を取り込み、その魔素を炎へ流し込む事で強力な火柱を生み出す、といった仮説に基づく検証。

 おそらくこれが正解なんじゃないかと少しだけ思っている。


 目に涙を浮かべながら焼き魚を食べている奥田の姿は、給食に出てきた嫌いなおかずを居残りしてまで食べさせられてる児童を彷彿させ、たとえ崇高なる大義の前であったとしても胸が締め付けられる。


 しかしこの実験も敢えなく不発に終わる。


◇◇◇◇◇


「もー無理ですって!!!!!!!」


 奥田がキレた。


「まあ待て、実のところ次からが本番だ」


「次の実験で何も起こらなかったら絶交ですからね!!!」


 絶交なんて言葉は随分と久しぶりに耳にした。

 言動まで小学生化してるんじゃなかろうか?

 いや?奥田は自称高校生とのことだったな。盛ってたか?それとも高校時代にも「絶交」って単語を使用していたか?


④魚のピンクの部分を火に焚べた状態で①を行う


 地球の魚であるマスに概ね似通った姿であるにも関わらず、明らかに異質な部位「どピンクの背中と、速い水流に不利そうな長い背ビレ」こそ、魔素が蓄積して変質した結果なのではなかろうか。

 それを確認するための検証だ。


 そして遂に念願の魔法現象が確認される。


 奥田が枝を炎に差し込み詠唱(燃えろキャンプファイヤー!と叫ぶこと)を行うと、焚き火の炎が少しだけ上方へと細長く変形したのだ。


⑤魚の内臓を炎に焚べた状態で④を行う


 この検証をもって、おおよその再現状況が整うはずである。

 しかし一番初めの時には魚6匹分の背ビレと内臓が火の中に焚べられていたことから、今回の検証ではその1/6程度の火柱となることが予想される。


 大体の大きさとしては、高さ5m、太さ20cmほどの火柱が生み出されることとなるであろう。


「じゃあいきますよー!燃え上がれ!キャンプファイヤー!!」


 奥田の幼い掛け声と共に、見事立ち上った火柱。

 しかしその大きさは予想よりをはるかに下回る、高さ1.5m、太さ5cmほどしかない。


 魔法という明らかな超常現象を意図して発現させられたにも関わらず、二人の心は何処か物足りなさを感じているのだった。


◇◇◇◇◇

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