第2話 ジョブの確認、できず

 二人の近くを流れている川の幅は10mほどあり、両岸は深い森に包まれている。

 森の中を進むのは躊躇われることから、一先ず辺りを警戒しつつも川に沿って下流へ移動することにした。


「先輩のジョブって何でした?」


 奥田が手頃な棒を振り回しながら質問してくる。

 単なる棒に見えるが対ゴブリン用の聖剣だ。


「会社員だよ!さっき何も表示されなかったじゃねえか」


「異世界に来たっていうのに、ステータスが表示されないなんて少し残念ですねえ」


「もし表示されたらジョブ欄に【遭難者】って記載されてると思うけどな」


 先ほどは恥ずかしい決めポーズまでとって叫んだというのに、ステータスウインドウの類が表示されることはなかった。


 その後も「ステータス表示されろ!」「表示!」「鑑定!」「アイテムボックス!」などと様々な文言を口にするが、それらしい挙動は一切発現することはなかった。


「身体が若返った以外には何もないんですかねえ」


「え?俺って若返ってるの?」


「気づいてなかったんですか?鏡見てみます?」


 メイク用の鏡を手渡され中を覗き込むと、そこに草臥れた男の顔はなく、高校生くらいの若い青年が写っていた。


「うわホントだ、じゃあ奥田さんも若返っているの?」


「めちゃくちゃ失礼なこと言いましたね?どうみてもプリップリのティーンじゃないですか!」


 彼女はそう言うと、大層自慢げな顔をしつつクネクネと奇妙なポーズをとった。


 もとより低身長で童顔なことと、異世界転移したことの混乱も相まって、まじまじとその姿を見るまで若返っていることには気付けなかったようだ。


 長野の実年齢は30代半ば、奥田は20代後半だったことから、二人は10年〜20年ほど若返ったと思われる。肉体的に充実していたであろう年齢まで戻されたのだろうか。


「道理でさっきから全然疲れないわけだ」


 現在二人が歩いている河原には、座りの悪い石や岩がゴロゴロしており、足元を注意しながら歩かないと思わぬ怪我に繋がりかねないため、普段の生活では使わない筋肉を存分に使いながら歩く必要があった。


 時に倒木を跨いだり、時に大きな岩をよじ登ったりをする場面も多々あるため、元来の体力のままだとしたら相当に疲れていたことだろう。


「ハハっどうよこの高校生バージョンの俺は!」


「正直ムラムラきますね、こんな状況じゃなかったらセクシャルなイタズラをしたいところです」


「よ、よしなよ・・・」


「ハハっ、冗談ですって」


 あまり冗談に思えないなという感想は口にせず、その後も「白い部屋で神に会った?」「野生動物やモンスターがでたらどう対処する?」「ゴブリン倒せるかな?」といった擦り合わせを含む雑談をしながら数十分ほど移動すると、前方から大量の水が打ちつけているであろう音が耳に届いた。


「お?この先に滝があるっぽいな」


 若干の状況変化に気分が上がり、少しだけ歩度を速めて、この先にある景色が途切れた場所へと急いだ。


◇◇◇◇◇


 水飛沫が立ち昇る滝の上へと到着し、そこから広がる景色を一望すると、眼下は広大な森が遠くまで続いているのが確認できた。


「えー!街とか全然ないじゃん!」


「滝の高さが大体20mとして、見えてる範囲は15kmくらいなのかな?この星が地球と同じ大きさとは限らないけど」


 すると彼女は何かに気付き、ある方向に指を向ける。


「あれあれ、あの先って森が途切れてません?」


「ほんとだ、じゃあこの川を下っていけばそのうち森から出られそうだね」


 とは言え森の切れ目と思われる地点までは相当な距離がある。

 日が暮れるまでに到達することは無理であると判断し、今日のところは一旦野営地を設営する運びとなった。


 崖が緩やかになっている箇所を伝って滝の下側へと移動すると、滝を構成する岩壁に人が入れそうな大きさの洞穴が開いているのを見つけた。


「ちょ、ちょっと中を見てきてくださいよぉ」


「ひ、一人で見にいくのは流石に怖すぎるって」


「こういうのは男性が見に行くべきでしょう?」


「最近そういった発言は炎上するよ?」


 結局一緒に洞穴の中を確認することとなった。

 二人の手には聖剣(木の棒)が強く握りしめられている。


「獣っぽい嫌な匂いはしないね」


「コウモリのフンが積もってる感じもしないですね」


 洞穴の中をざっと調査してみたところ、入り口付近には小部屋的に開けた箇所がいくつかあり、フンや体毛、匂いも見つからず、動物やモンスターなどが寝ぐらにしている様子は見受けられなかった。


「ここなら雨風は凌げそうだし、一息つけそうだね」


「絶対に人骨でできたオブジェが林立してると思ったんですけどねえ」


「俺たちがオブジェの材料にならなきゃ良いけど」


 洞穴は更に奥まで続いているようだったが、雨風を凌ぐだけの用途なら最奥部まで確認する必要もないだろうと結論づけ、一旦の調査は完了として次の行動へと移行することとなった。


 野営をするにあたり、互いの鞄の中にどのようなものが入っているのかを確認するために、洞穴の中で向かい合って地面に座った。


「えっと財布、着替え、お茶でしょ・・・」


◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る