わがままだって、甘く愛して。

ぬーん

わがままだって、甘く愛して。

私達の出会いは二年前。

当時高校三年生だった私、児玉柚月が地理教師の原太一を好きになって、猛アタックの末、高校を卒業してから無事に付き合うことになった。

大学生になって一年が経過した柚月は、少し不満に思う事がある。

太一が毎日の授業に加えて、部活動の顧問、テスト期間の準備と、とにかく毎日忙しい日々を送っている事だ。

最初は毎日していた電話も、最近は週三回の電話になり、以前は何時間も通話していたのに、最近は三十分以内で終わってしまう。

柚月は寂しさでいっぱいになってしまった。

電話の呼出音が柚月の部屋に響く。

「…もしもし」

少し低い太一の声が聞こえてきて、ぴくりと肩が跳ねる。

「あ、太一くん出てくれた。」

「どうした柚月?」

「あ、あのね」

私、と言いかけて涙が溢れて止まらなくなってしまった。

柚月の何とか抑えようとしている泣き声と、鼻水をすする音が聞こえたのか電話口の太一は少し焦ったように、「柚月大丈夫か?」と聞いてくれた。

「…たい…。」

「え?」

「今すぐ太一くんに会いたいよぉ…。」

「…うん。」

その一言を最後に通話が途切れた音がして、柚月はボタボタと大粒の涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。

わがままを言って呆れさせてしまっただろうか、いよいよ太一から別れを切り出されてしまうだろうか。

グルグルと脳内で嫌な予感が過ぎる。

膝を抱えてしばらくの間泣いていると、玄関の鍵が鳴る音がする。

ビクッと驚きつつも恐る恐る玄関へと柚月が向かうと、そこには会いたくてたまらなかった太一が額に汗をかきながら立っていた。

「た、太一くん…。」

「…はぁっ…ただいま…。」

柚月が涙を浮かべながら駆け寄る。

「お、おかえり…なさい…。」

泣いていて言葉が途切れ途切れになってしまう柚月を、太一は、恋人繋ぎした方の手で柚月の右手を優しく引っ張り、自分の元へと右手で腰を抱き寄せる。

玄関で柚月は太一の足を跨ぐようにして太腿に座る形になり、恥ずかしそうに視線を斜め下へと泳がせる。

「こーら、こっち見ろ。」

「む、無理です…!恥ずかしすぎるもん!」

ムッとした顔をした太一が視界の端に見えた柚月は、おずおずとしながらも、ゆっくりと太一と目を合わせる。

柚月の恥ずかしさで潤んだ瞳が太一を射抜き、生唾をゴクリと飲み込んだ太一は身動きが取れない。

「やっとこっちを見た。」

「…太一くん…」

「寂しい思いをさせてごめん。」

「いや、それは…仕方のない事だから…。」

瞳いっぱいに涙を溜めて、悲しそうに笑う柚月に胸が締め付けられる太一。

瞬きをした柚月の目から涙がこぼれ落ちて顎を伝うと、太一の履いているスーツのパンツに柚月の涙のシミが出来る。

柚月が左手で慌てて涙を拭き取っても、ボロボロと次から次へと溢れ出てくる。

「…ごめんなさい…太一くん…」

太一は、柚月の背中を支えていた右手で自分の方に頭を引き寄せて、お互いのおでこをくっつけると、涙ながらに柚月がポツリポツリと話し出した。

「太一くん」

「…うん。」

「わがまま言ってごめんなさい。」

「…ああ。」

「それから、」

「…それから?」

「本当はずっと、太一くんに会いたかった。」

最後の言葉を聞いた太一は、理性が飛んだかのように、柚月に噛み付くようなキスをする。

驚いた柚月が逃げないように右手で首を固定すると、苦しさから息を吸いたくなった柚月の唇の隙間から舌を入れて、更に深くキスをする。

時々舌や唇を甘噛みをして柚月に舌を絡めながら、わざと音が聞こえるようにキスをする。

太一が唇を離した時には、お互いの涎が糸を引き、自分の唇をなぞる様に舌で舐めとる。

涙目の柚月は今にも蕩けそうなトロンとした顔をしていた。

太一の体にもたれ掛かりながら、肩に頭を預けて必死に呼吸をしていた。

「ちょっとやり過ぎたか…。」

目を閉じて肩で息をしている柚月を、太一は愛おしそうに背中を撫でてから抱き締めると、柚月が弱々しく左腕を太一の首に回してきた。

「大丈夫?柚月。」

「……かい…」

「ん?」

「…もう一回、して…?」

恥ずかしそうに耳元でねだる柚月の言葉に、太一は驚きを隠せなかった。

内心ドキドキしながら、表面上は平静を装ったまま柚月に声をかける。

「今すぐ応えてあげたいところなんだけど、場所を変えよう。…立てる?」

「…んっ…立てない……。」

甘えた様な声を出す柚月に対して、太一は理性が完全に飛びそうになる前に、柚月の唇に優しくキスをする。

「柚月、俺の首に手を回せる?」

柚月がコクリと力なく頷いて両腕を太一の首に回すと、太一は柚月の足を揃えてお姫様抱っこをすると、そのまま立ち上がり柚月の寝室まで運ぶことにした。

柚月の寝室の扉を開くと、ベッドの上に優しく柚月をおろす。

柚月は太一の首に手を回したままで、熱く二人の視線が絡み合うと、その勢いのまま何度も角度を変えて深いキスをした。

太一が一度キスを止めて、柚月の上に跨るとネクタイを雑に外し、ジャケットと一緒に半ば床に投げ捨てるように置く。

再びキスをしようと柚月の頬を撫でていると、柚月はお構い無しに太一のYシャツの釦を一つずつ外そうとする。

慌てて太一がその手を掴んで柚月の動きを止めると、不思議そうに太一を見上げる柚月。

「これ以上何かされると、歯止めが利かなくなる。」

困った様に笑う太一の眼鏡を外す柚月。

「こら、柚月。」

「んふふ」

楽しそうに笑う柚月が太一の眼鏡を掛けると、度が強いのか瞬きを繰り返していた。

それを太一が取り上げて、ベッドのサイドテーブルの上に置いた時に、カチャリと眼鏡の音が鳴った。

夢中でカラダを重ねていると、太一が気がついた時には、柚月は途中で気を失ってしまっていたようだった。

太一は愛おしそうに柚月の頭を撫でて、おでこにそっとキスを落とす。

「愛してるよ、柚月。…でも、あともう少しだけ付き合って。」

空が少し明るくなり始めた時間に目が覚めた柚月は、あまりの腰の痛みに身動きが上手く取れなかった。

隣で寝息を立てる世界で一番好きな人の腕の中で眠りにつき、朝を迎えることの出来る幸せを噛み締めながら、太一に抱き着いた。

「…ん?柚月、随分早起きだね…。」

「あ…起こしちゃった?」

「いや、大丈夫…。…でも、一旦家に戻ってからまた会いに来る事にするよ。」

「太一くん、帰らないで…。」

「……ごめんな、柚月。でも、必ずまたここに来るから。」

「太一くん…。」

「それまで、良い子で待っていられる?」

柚月を安心させるように笑う太一に涙を流しながら大きく頷いて、強く抱き着く柚月に応えるように、太一も強く抱きしめ返す。

「私…太一くんがいてくれて、とっても幸せ。」

「ああ、俺も幸せだよ。」

二人は見つめあって、おでこをくっつけて至近距離で微笑み合う。

扉が閉まるまでベッドの上から太一に手を振り、見送った柚月。

扉がゆっくりと閉まる音と、太一の足音がだんだん小さくなり遠ざかっていくと、部屋の鍵が閉まる音が聞こえた気がする。

ベッドの中に潜り込んだ柚月は、そこに確かに残る太一の残り香に包まれて、再び深い眠りについた。



わがままだって、甘く愛して



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