ブックタワーを攻略せよ!

卯月

図書館塔の返却ミッション

 魔法学院の図書館塔。

 外から見ると五階建てなのに、中に入るといくら階段を上ってもフロアが続き、実際に何階あるか知っているのは図書館長だけ、というウワサだ。

 そんな図書館塔には、決まりがある。


『本の返却期限を破った者には、ペナルティを与える』


「……何で、こんなことに……」

 涙目のナナ。長い三つ編みは、ぐしゃぐしゃだ。

「そりゃ、ナナが本を返すの、忘れてたから?」

 自分の格好は見えないけれど、ぼくも似たようなことになっていると思う。

「たった一晩じゃない! 朝、気づいてすぐ返しに来たのに!」

 ぼくとナナは一年生。

 登院した教室でカバンの中を見て、うぐ、と変な声を出したナナに「ユート、ついてきて!」と腕をつかまれたまま、一緒に図書館塔へ入ったら。


 入口近くにあるはずの貸出・返却カウンターが、ない。

 フロア全体が薄暗く、誰もいない。

 振り返ると、入ってきたはずの入口が、ない。

 ヒラヒラ舞ってきた紙には、『七階カウンターで返却するまで退出不可』の文字。


「ホンカエセーッ!」


 いきなり半透明のゴーストが現れて、ぼくとナナは、「ギャーッ!!」と叫んで逃げ出した。

 行く先々で、本棚の陰からゴーストが「ホンカエセ―ッ!」と現れる。ただ、追いかけてくる以外は何もしないので、ぼくは途中から、

(もしかしてこれ、おどかすだけの係かな……?)

 と思い始めた。でもナナは、本気で怖いみたいだ。

「とにかく、七階へ行こう。このままじゃ、ずっと出られないよ」

「どうやって! どこに行ってもゴーストがいるのに!」

「こないだ授業で習った〈灯〉の呪文。あれ確か、ゴーストが嫌がるんじゃなかったかな」


 短杖の先がロウソクくらい明るくなる魔法で、点けている間はゴーストが寄ってこない効果があった。すぐ消えてしまうので、交代で〈灯〉を点ける。

 本棚が迷路になっている上、フロアごとに場所が違う階段を何とか見つけて、やっと七階へ。返却カウンターにたどり着いたナナが、

「おくれてすみません……」

 と声をかけると、カウンター内にいた銀髪の女の子が、ヨレヨレのぼくたちを見て鼻で笑った。


「フフン、これに懲りたら、二度と期限を破らんことだな」

「なっ!」


 ナナがムッとしたけれど、言い返すのはガマンしたみたいだ。

 ――ぼくたちと同い年くらいに見えても、この人は図書館長だ。本当の年齢は、誰も知らない。


「さっさと教室に戻れ。外ではそんなに時間が流れてないから、一コマに間に合うかもしれんぞ? 全力疾走だがな」


 パッとフロアが明るくなり、予鈴が聞こえてきた。

「がんばれー」

 棒読みで応援する館長。

「はーらーたーつー!」

「ナナ、急いで!」


 遅刻した。


   ◇


 なんてこともあったなぁ、と、三年前を懐かしく思い出す。

 ゴーストに涙目になっていたナナは、いろいろ魔法を覚えて、強くなった。


「ユート、今からこの、五日寝かせた本を返却に行くわ! ついてきて!」

「……ねぇナナ。館長に挑むために延滞するの、やめない?」



〈了〉

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