第5話


「ん……」


 目を覚ますと室内は薄暗く染まり、窓から見える景色は夕暮れ色に染まりかけていた。


 膝には椅子に掛けておいたはずのブランケットが掛けられており、そういえば誰かと話していたのを思い出す。

 確か、父上の持ってきた縁談相手だったか……。


「あ、」


 そうだ、その縁談相手がどんな女なのかを確かめるために別室に呼んだのだが、あまりにも何も喋らない為途中で眠ってしまったのだ。


 というか、普段では令嬢達が擦り寄り自慢話や容姿、レオンの話等を色々聞かされるためこれほどまでに静かな時間は初めて体験したためである。


「名前はなんだったか……確か、シャーロ?シャルルいや、シャルロットか」


 思えば顔をよく見ていなかったと思い出し今度会った時は確認しておこうと決める。


 そんな時扉にコンコンコンとノック音が響いた。


「こんな時間に失礼します。ラフレシア侯爵子息殿」

「貴方は、あぁ、レヴァノン伯爵か」


 部屋へと入ってきたのは淡い金髪の男であった。

 王都や社交界には滅多に顔を出さないためこうやって目にするのは初めてであった。


「伯爵がこのような時間に何用でしょうか?」

「少し娘の事でお話をしに」

「なるほど……、どうぞこちらにお掛けになって下さい」


 まだ片付けていなかったティーカップを移動させ、新しいティーカップを取り出し紅茶を入れ直す。本来なら客人であるため、お茶を入れる際は侍女を呼ぶのだが呼ぶのも面倒であるため今回は自分で入れてしまう。

 幸い茶葉もお湯も部屋の中にあった為直ぐに作る事が出来た。


「さて、それでお話とは何ですか?」

「率直に申し上げますと今回はお話と言うよりとある事を施しに来ました」


 伯爵に手を差し出すように促されされるがまま手のひらを差し出す。

 伯爵は手袋を外しレオンの手のひらに触れると淡い輝きを放つ黒い魔力が触れた箇所から溢れ出した。


「――っ」


 呪術だと気づいたレオンは咄嗟に腕を引っ込める。しかし魔力の残滓はレオンの手の甲に残り続け、しばらく経つとそこには呪術の影響を受けたせいか見た事のない痣が残っていた。


「伯爵、これは何ですか」

「我が家にのみ伝わる秘術です。対象者が一年以内に真実の愛を見つけなければ感情の一つである愛情を失い、真実の愛を見つければその愛は永遠に失われることが無くなる、という呪い。――そして、その呪いは真実の愛を捧げる相手も貴方に真実の愛を捧げなければ貴方の呪いは解かれることはありません」


「はぁ……?」


 ハリスの長ったらしい説明を聞いたレオンは理解できないとでも言うように声を漏らした。否、理解は出来る、しかし呪いの効果があまりにも無理難題な事を言っているからこそ理解しようにも理解できないのだ。


 要するに、レオンがシャルロットに対して真実の愛という物を捧げ、また、シャルロットもレオンに対して真実の愛を捧げなければレオンの呪いは解けないそういう事だろう。


「娘には運命の相手と結ばれて欲しいのですそれが父としての子への愛情ですよ」


にこやかな笑みの裏には家族への愛情と滲み出る狂気を、レオンは僅かに感じ取ったのだった。

そして同時にこの男は敵に回したくない、そうレオンは頭に刻んだ。


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内気な令嬢と粗暴令息の婚約〜真実の愛を貴方に捧げるまで〜 @tokimno_hara

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