第4話
「――は、初めましてシャルロット・レヴァノンと申します」
「あぁ、父上から聞いてる」
視界に映るのはこの国では珍しい青みがかった黒髪に長いまつ毛に縁取られたピンクブロンドの瞳、整った目鼻や輪郭など誰が見ても間違いようのない、美しい容姿の持ち主であった。
目の前の貴公子は優雅にお茶を飲みながら、しかし、こちらと一度も目を合わせることなくただそう口にした。
ラフレシア侯爵邸に訪れたと当時に、何故かシャルロットだけがこの婚約者候補に呼ばれ、絶賛別室でこの青年と二人きりである。
勿論、こんな美しい人と二人きりになれて嬉しいなどそんなことを思う訳もなく、シャルロットはただただ相手を怒らせないように当たり障りのない反応をしようと考えるだけで精一杯であった。
シャルロットは青年と向かい合う様に座り出されていた紅茶を一口含む。先程少し喋っただけでも緊張の性で口の中がカラカラに乾いてしまったのだ。
「あの、ラフレシア侯爵子息様」
「あんたは堅苦しい呼び方をするんだな」
「す、すみませんでは、何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「……レオンと呼べ」
「承知しました。レオン様」
会話が途切れてしまった。しかし、初対面でここまで話せたのは上出来であろう。普段のシャルロットであれば『こんにちは』と、言うだけでも素晴らしい方だ。
否、しかしこのまま何もしない訳にも行かない。シャルロットはこのレオンに呼ばれたから来たのだ。呼ばれた理由を聞かなくてはいけない筈だ。
( 何用で私を呼んだのでしょうか?それとも、何か御用があるのですか? 何て聞けばいいのかしら……)
「きょ、今日は、良い天気ですね」
思わず口から出たのは、心底どうでもいいことであった。
何故もっと気の利いた話題を出せなかったのだろうと己の浅はかさにシャルロットはみるみる青ざめていく。
「その……こ、このお茶もとても美味しいです……っ」
「……………………そうか」
レオンはただそう頷くだけであった。否、反応をくれただけ良い方であろう。このままスルーされてしまっていたらシャルロットは恥でどうにかなるところであった。
その後どちらとも話題を切り出す事はなく時間は過ぎていき、ただただ時計の針の音だけが嫌に大きく聞こえるだけとなった。
そして、どれほど時間が経ったのだろうか……。徐ろに顔を上げて見ると、いつの間にかレオンはソファに頬杖をつきながら小さな寝息を立てて眠っていた。眠って、いた……?
「……ぇ」
「すぅー……すぅー……」
耳を傾けてみると、確かにレオンは寝てしまっているようだ。
この展開には予想していなかったシャルロットは何をすればいいのかよく分からず、取り敢えず近くの椅子に掛けてあったブランケットをレオンの膝に掛けるとそのまま部屋から退出した。
取り敢えず本人が寝てしまったのだからいいだろう。結局何故呼ばれたのか分からないままだがまた機会がある時にでも聞けば良いことだ。
見慣れない屋敷の廊下を歩きながら、シャルロットは足早にハリスとマーガレットの元へと向かったのだった。
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