第42話 特定(A2パート)罠を仕掛ける
〔
「はい、間違いありません。
〔しかし神奈川県在住だと神奈川県警の協力がないと身柄を確保できないぞ〕
「東京で罠を仕掛けます。都内に入れば参考人として呼べますので。それに三谷さんが東京へ来ている間に、神奈川県警に家探ししてもらい、密室トリックに使ったものを見つけてもらえたら万全です」
〔密室トリックに使ったもの。それだよ、私が気になっていたのは。いったいどういうトリックで飯賀を殺して密室を作り出したのか〕
「飯賀の殺害場所は川崎区です。サバイバルナイフを抜き取らなければ出血は防げますし、冷蔵集配車の中なら血も固まりますから。そうしてパブの従業員である
「はい。というか、どうして与田が大きな荷物を運んだと見抜いていたんですか。まだ報告もしていなかったのに」
「飯賀さん自身がマンション出入り口の防犯カメラに写っていない以上、誰かが持ち込んだとしか考えられませんからね。ベランダ側の防犯カメラにも写っていなかったのですから。そして大きな荷物を持ち込んでも不自然に思われないのは配送会社の人です」
〔ということは、三谷は与田を殺害しに来る可能性が高いわけか〕
「はい、与田さんの口を封じればアリバイトリックも密室トリックも闇に葬れると考えるはずです。ですので、与田さんの警護を手厚くするか、罠にかけて三谷さんを釣るか。この二択で三谷さんを捕まえても、おそらく否認するでしょう。与田さんが大きな荷物を買取業者のスリンガーにではなく、飯賀さんの部屋の前に配達したと証言すれば、少なくとも三谷さんの供述の一端は崩せます」
〔それだけで三谷を落とせるのか〕
「金森くん。メゾンド東京の出入り口映像から変装した三谷さんが出入りしているはずですが、当然見つけていますよね」
「本当、
〔つまり、与田が遺体を玄関先まで運び入れて、三谷が中に入って密室トリックを仕掛けた。じゃあ動物の血はどうなるんだ〕
「あれは三谷さんが飯賀さんの飼っていたレトリバーを殺して流したもののようです。それをごまかすためか彼の飼い犬が一頭その日に亡くなっています。おそらく遺体から採取した動物の血が三谷さんから検出されても、自身の飼い犬と飯賀さんの飼い犬との区別がつかないだろうと考えたのでしょう。人間よりも小型の犬であっても、そもそも血がカーペットに流れていることを偽装すればいいだけなので、量は少なくても問題ありません」
〔なるほどな。その犬の遺体をどうしたのかを追えば、トリックにも気づけるわけか〕
それだけだと押し込みが足りないようだが。
「金森くん、ホームセンターで例のものを購入した人物は特定できそうですか」
「すでに特定しています。間違いなく三谷です。動画も入手できていますから再生しますか」
「頼むわ」
〔例のものとはなんだ、地井〕
「電動ドライバーです」
〔電動ドライバーか。それを三谷が買ったことに意味があるのか〕
「誰にでも簡単にできる密室トリックです。鑑識さんにも痕跡を確認してもらって説明してあります」
「動画はいつでも再生可能です」
「では流してください。土岡警部もできればこちらにいらっしゃいませんか。三谷さんを追い詰める策を練りたいんですが」
〔捜査員全員を連れてそちらに出向こう。証拠映像や証拠品の類を見ておきたいからな。電動ドライバーも型式がわかれば探しやすくなる〕
「わかりました。それではこちらで状況証拠をまとめておきます。物証となる三谷が送った荷物の伝票控えは警視庁で、電動ドライバーは神奈川県警で探してもらいましょう」
〔それで、肝心の飯賀さん殺害に使った密室トリックはどのようなものなんだ〕
「飯賀さんの遺品から鍵を手に入れて部屋の中に遺体を放棄するんです。そうしてドアから
「飯賀のスマートフォンの位置情報だと、殺した直後に被害者の部屋へ置いてきたってところか」
「そうです。三谷としては自分で遺体を運ばないかぎり足はつかないだろうと思っていたはずですから。おそらくですが、その日三谷さんは帰宅していなかったはず。それは三谷さんが自分のスマートフォンの電源を切っていたことからも明らかでしょう。ただ、それだけでは状況証拠にすぎません」
「だから伝票控えと電動ドライバーが物証になるのか。ちょっと待てよ。地井の推理だと、飯賀のスマートフォンには三谷の顔データが登録されているんじゃないか」
「かなりの博打にはなりますね。用心していたら顔認証に登録したデータは削除しているはずです。もし密室トリックに自信を持っていたのなら、消し忘れた可能性もあります。ただ、うちの量子コンピュータなら、消したデータも復元できますので、もしかしたらそれが大きな物証に化けるかもしれませんね。以前お話ししましたが、すべての関係者のスマートフォンがあれば、確証が得られるでしょう。飯賀さんを呼び出したのは誰かや最後に話した人物なんかも」
〔もしかしてだが、俺たちが飯賀のスマートフォンをすぐにお前に預けていたら、二木の殺害は回避できたのか〕
「その可能性がないとは言いません。少なくとも三谷の行動に枷をはめることはできたはずです」
〔しかし科捜研も動員していたからな。そこでのチェックに時間がかかってしまった一面もある。そうであれば私たちのミスだな。それでは科捜研から飯賀と二木のスマートフォンを借りていこう。もし本当に飯賀のスマートフォンの顔認証に三谷の顔が登録されていたら、これ以上ない物証になるかもしれないからな〕
「それを悪用して、供述をとることもできるかもしれません」
〔悪用、って。ペテンにかける気か、地井〕
「はい。もし顔認証に三谷さんのデータが存在していた痕跡を見つけたら、すぐに復元します。先ほど三谷さんの顔写真と指紋も含めた掌紋を撮ってきましたから顔認証や指紋認証の類なら突破できるはずです。警視庁が三谷さんを参考人で召喚できたら、それで三谷さんを落としましょう」
〔一課にいなくても勝負師なところは変わらないな。まあいい。それで三谷の逮捕状が請求できるなら、博打に出てもいいだろう〕
「すぐのお越しをお待ちしております。捜査の打ち切り時刻まで間もありませんから」
(第11章B1パートへ続きます)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます