第11章 特定

第41話 特定(A1パート)犯人は〇〇

 神奈川から事務所へ戻ったれいは、かなもりの出迎えを受けた。

「神奈川での捜査、お疲れ様でした。どうでしたか、収穫はありましたか」


「収穫だらけね。たにが犯人だと確認できましたから。そこで裏づけをとってもらいたいんだけど」

「ではそれがあれば警視庁が参考人で呼ぶのも時間の問題ですか」

「状況証拠はすべて揃ったのだけど、決定的な物証がない。でも、おそらくそれも見つかるはず」

「決定的な物証、ですか」


「三谷さんの話はすべて録音してありますから、それを分析すれば犯人しか知りえない情報まみれだということはわかるわね」

「僕も聞いていたんですけど、ふたの件はまだ公表されていませんよね。今すぐに警視庁へ提出すれば、少なくとも二木殺害の容疑で聴取できるはず」


「ただその場合、俺はあの女に殺されそうになったんだ。俺はいいがあの女に殺されるところを見ていた。それに気づいていたらしく、あの日俺は呼び出されたんだ。なんとか抵抗して、あの女が用意していた薬を飲ませただけだ。まさかあれで死ぬとは思わなかった。正当防衛だ。という具合に逃れようとするでしょうね」

「二木の部屋に三谷を連想させるものはなかったんですよね」

「そう聞いています。三谷さんを脅すにしても証拠もないのでは意味がありません」


「二木が自らの目撃だけを頼りに三谷を割り出した、というのも無理がありますよね。それこそ興信所でも使いたいところですが」

「二木さんと三谷さんにはつながりがないと思いますので、つちおか警部に興信所で二木さんが人を探していなかったかを確認してもらいましょう」

「そういう仕事は量子コンピュータにはできませんね。インターネットにすべてつながっているわけでもありませんから」


「そうか。量子コンピュータを忘れていたわ。二木さんのスマートフォンをこれで解析すれば、二木さんが三谷さんを呼びつけたのかどうかわかるはず」

「もし通話記録が残されていたら、決定的かもしれませんね。おそらく三谷は死者のスマートフォンの履歴は確認できないと思っているでしょうから」

「それもありますが、二木さんからかけたのか、三谷さんからかけたのか。それがわかれば三谷さんの供述をひっくり返せます」

「そういう捜査ならこいつの出番ですね」


「あとはスリンガーという買取業者のもとにゴルフクラブが三セット同時に宅配されているはずよ。その行方が判明すれば、確証が得られるわね」

「三セットのゴルフクラブ。買取業者に踏み込んで追わせれば済みそうですね」

「もしかしたら三セットをあらかじめ別の業者経由で発送しておいて、ゴルフクラブ三セットが買取店スリンガーに届いている可能性もあるわね。その伝票をスリンガーが持っていれば手口はわかるんだけどね。もし伝票を処分していたら、証拠がないわけだけど」


「それなら都内の宅配会社のサーバーから、スリンガー宛の荷物をすべて追跡してみましょうか。どの会社かわかれば、控えの伝票の提出も得られるのではないですか」

「ちょうどそれをお願いしようと思っていたところなのよ。それが得られれば三谷さんのアリバイは崩せるわ」


「で、その場合、は犯人ではないのですか」

いいさんの事件は死体遺棄ね。ただ運んでいたのが飯賀さんの死体と認識していたのかは不明です。認識の問題は当人にしかわかりませんから」

「それじゃあ飯賀を殺したのはやっぱり三谷でしょうか」


「間違いないわね。幸区の公園で電話の相手と口論している姿を印象づけ、川崎区へと誘き出してサバイバルナイフで殺害。ナイフは抜かずに死体を大きな箱に入れて、すでにパブの女性従業員のやまぐちともさんに依頼していた発送する荷物を用意する。三谷に呼ばれた与田が受け取りに来て遺体を搬送したことになる」

「証拠はあるんですか」

「与田の配送会社にも配達伝票の控えが残っているはずです。それを確認すれば、三谷からの大きな荷物がスリンガーに運ばれたのかメゾンド東京へ運ばれたのかわかるはず」

「東京の会社だから警視庁が調べられるわけですね」


「そういうこと。ただ、三谷とすれば飯賀さん殺害の罪を与田に押し付けたいところだろうから、与田の身辺が不穏になるはずだけど」

「与田には警察の監視がついているんですよね。そんな中で殺害する余裕がありますかね」

「私ならトイレの個室で待ち合わせて与田さんを殺害し、服を取り替えてなりすますかしら。で、適当なところまで運搬したら死体を遺棄して立ち去る。二木さんと同様に遺書でも用意しているかもしれないわね。これなら宅配会社の集配人が犯人と印象づけられるから、三谷に容疑が向かなくなる。と踏むでしょう。でもそううまくいくかしらね」


「どういうことですか」

「警察が張りついているから、与田さんを誘き出すのは自滅につながるのよ。それに与田さんは会社に内緒でエリア外で集配業務を行ったとしてもうひとりの集配人とともに二人体制で配達しているはずだから、襲うにしてもタイミングがないわ。仕事の時間内はかなりリスクが高いのよ。ただ、三谷がどこまでそういう事情を知っているのか。それ次第では網にかかる可能性も高くなるはずね」

「果たして捕まるでしょうか」


「まさか自分が警察から最重要で疑われているとは思っていないでしょうね。私もそういう聞き込みをしてきましたので」

「三谷をペテンにかけたわけですか」

「まあね。飯賀さん、二木さんと続けて殺害できたことで、いつでも殺せるし証拠も残さないと変な自信を持っているはず。しかも捜査はまったく進んでいない。そう思い込むことがかえって三谷さんの足をすくうわ」


「どのような網にかけるか、ですね。警察の仕掛けが気になるところです」

「それについては私に考えがあります。与田さんをおとりにすることになりますが、確実に網にかけられるはずよ」


 問題はこの仕掛けが警視庁に了承されるかどうかだ。

 民間人を危険にさらすのは警察への悪評判になりかねない。誰か適当な人物に代役を頼むのがよいだろう。年格好という点ではえいとうが適当だとは思うが。危険を承知で引き受けるかどうか。強制する権限はれいにない。

「報告も兼ねて土岡警部に相談してみましょう。三谷を確実に捕まえて自供を得なければなりませんから」

 玲香はバッグからスマートフォンを取り出した。





(第11章A2パートへ続きます)

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