第36話 二木夕月(B2パート)容疑者殺しの犯人
「以前
〔わかった。警視庁には俺が話を通す。神奈川県警はすぐに動かせないかもしれないが、なるべく早くデータを提供させよう。それで犯人が割り出せるとなれば、神奈川県警も嫌とは言うまい〕
「お願いします。まあ提供されなくてもこちらでハッキングすれば手に入りますが。それでは証拠として採用できません。ですので歩行データを警視庁と神奈川県警にお願いしたいのです。では
通話を切ると
「金森くん、二木さん宅の防犯カメラに怪しい人物がいるかチェックしてください。顔を隠している可能性が高いですので、かえってわかりやすいはずです」
「了解です。先ほどの電話の内容からすると、その後に容疑者たちの歩行データにかけるんですよね。それでしたら今から歩行データを使って選別できますが」
「できるの、すでに」
「はい。以前歩行データの話をしたときに、機能として追加しておきました。今回の事件でなにかの役に立ちそうだったので、二木を含めた容疑者の歩行データはすでに取得済みです。
金森は抜け目がない。雑談程度の機能を実装させられるとは。
歩行データの一致率が低くても同じと解釈される場合があるので、科捜研でもテスト中のシステムだ。
それに必要かどうかわからない段階で、警視庁と神奈川県警から容疑者の映像を抽出するのは骨が折れただろう。
「二木宅の防犯カメラに怪しい人物が写っていました。映像出します」
大型モニターに表示された姿を見た。
「居住者も含めて検索しました。ニット帽にマスクをかけた黒服の男と思しき者が、黒のリュックサックを背負ってマンションに入っていくのが確認できました。出ていった形跡はありません。ただ同じリュックサックを持つ人物は写っていますので、おそらく殺害後に着替えて退出したようですね」
「そのふたつの映像はどの程度一致しているのですか」
「八十三パーセントほどですね。着ているものが違うので歩きやすさが違うのでしょう。でも八十三パーセントも一致すれば同一人物と見てよいでしょう」
「容疑者の歩行データとも突き合わせたんですよね。誰がどのくらいの一致率だったのかしら」
「監視カメラの歩行データとの一致率は八十八パーセント、まずこの人物に間違いないでしょう」
そこには、警察のサーバーから
「体の傾け方と足取りはほぼ一致しています。手の振り方が若干違うのは荷物を持っているからでしょう」
この人物が二木を殺したのは確実だ。あとは
二木
であれば二木と飯賀を殺したのが別の人物である可能性はどのくらいあるのか。
飯賀を殺した犯人が誰か、他の容疑者の誰かが知っていてその人物をかばうために二木を殺してアリバイを作った、とも考えられる。
しかし、それほど恩を着せるような関係は、数少ない。
いや、二木が飯賀を殺したことを知った高田史雄が二木を殺すことで疑いの目をそらす意図もあるかもしれない。
二木夕月と飯賀を殺したのは別の人物なのか同一人物なのか。
同一人物だとすれば、まず二木夕月殺しで捕まえて、飯賀
今はまだ動けない。
別の人物によるのか同一人物によるのか、確証を得るまでは。
しかし、飯賀殺しの容疑者はいずれも警察の監視下にいたはずだ。それをかい潜って二木を殺したとすれば、相当頭が切れる人物だといえる。
とりあえず二木夕月殺しのホシは判明した。しかし飯賀礼次殺しのホシはまだわからない。
二木が飯賀を殺してそれを恨んだ真犯人が二木を殺した。それは飯賀の復讐のためである。だが、二木には飯賀を殺せない。それは口論していた通話記録と中継されたエリア検索をしてすでに証明されている。
もちろんトリックを仕掛けることも可能ではある。
もし二木さんが飯賀さんを殺したのなら、二木のスマートフォンを自宅に置いて、もうひとつのスマートフォンを天地逆さまにして合わせておいて、さらにもう一台スマートフォンを持って川崎市まで出向く。
そうして飯賀と電話で言い争いながら、距離を詰めて殺害する。それから遺体を運搬してメゾンド東京の飯賀の部屋に遺棄する。
これならやってやれないことはない。
しかしそのためには三台のスマートフォンが必要である。
もし転送可能なスマートフォンなら、二台あれば実行は可能だ。しかしそこまで特殊なことをすれば、いつかはバレるはずだ。
「金森くん、二木さんが契約していたスマートフォンは一台だけですか。複数台ですか」
「一台は確実ですが、もう一台はどうだろう。四大キャリアでない格安スマホであれば契約があるかもしれません。すべてのサーバーに侵入して探し出してみますか」
「お願いします。それで二木さんに飯賀さんが殺せたのか、はっきりするはずです」
最近はスマートフォンを二台持ちするのが当たり前になっている。メイン機とサブ機、動画を観るスマホとSNSを読むスマホ、仕事用と私用。いろんな理由はあるが、多くの人が当たり前のように二台持ちしている。
玲香が思案しているところで金森が声を発した。
「検索終わりました。格安スマホの一社に一台契約があることが判明しました。その端末のGPSとエリア検索をかけたところ、飯賀殺しのあった頃は二木のスマートフォンと同じ場所にありました。移動はしていないので、おそらく二木の手を離れていませんね」
これで少なくとも二木が直接手を下した可能性はなくなった。
しかし、電話に意識を向けさせている間に真犯人が殺したという推理は依然として成り立つ。その場合は川崎市にいた飯賀の言い争う声を聞いていた人物がいても不思議はない。それが引き金になったかもしれない。
そのことを察した二木が自殺した、とも考えられるが、その場合はそう書き置きすればよいのであって、自分が直接手を下したかのように書く必要はない。
(第10章A1パートへ続きます)
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