第30話 追跡(A2パート)大田区のカラオケサークル

「動機としてはありうるわね。黙ってやる代わりに金を寄越せ、と恐喝していたおそれもありますから」

「となれば、やはりたにが真犯人ですかね。殺せば得をするという点で」

 かなもりの言うように、確かに三谷は飯賀を殺せば、金を脅し取られることもなく、家族に浮気を知られることもなく、かなりの利益を得そうだ。


「もし脅迫で金を出していたのであれば、返済を要求して殺したと考えられる市瀬いちのせさんやふたさんほど衝動的とは言い難いわね。三谷さんが犯人なら、かなりの計画性を感じさせますが」

「じゅうぶん計画的だと僕は思いますけどね。密室トリックを仕掛けて、鉄壁のアリバイを有している。まるで殺人事件が起こることを前もって知っていたとしか思えませんよ」


「誰かのいいさん殺害計画を耳にして利用した、とも考えられるわね」

「ということは、事前に計画を知ってタダ乗りしたわけですか。別の人物がアリバイトリックを仕掛けるから、それを逆用して自らのアリバイを強化した、と」


「そう考えると筋は通るんだけど、市瀬さんや二木さんほどの殺意は見出だせないのよね。目当ての人次第では飯賀さんが邪魔になる可能性もありますけど」

「もしかして、目当ての人が二木だった、なんてことはないですよね」


 三谷の目当てが二木だった。一見飛躍しているようだが、案外よいところを突いているかもしれない。それなら飯賀が三谷に圧力をかけた理由も説明できる。

 だが、カラオケサークルには二木は関係ないのではないか。インターネットに情報がないので、当たっているのかどうかを判断できない。

つちおか警部に捜査してもらいましょう」

 スマートフォンをタッチした。


「土岡警部、です。飯賀さんと三谷さんが通っていた昭和ポップス専門のカラオケサークルに二木さんは所属していますか」

〔二木がカラオケサークルにか。いや聞いていないな。急いでいるなら本人に直接聞いてみるが〕

「お願いします。それとカラオケサークルに刑事を派遣して、サークル名簿を借りるかコピーをとるかしてもらいたいのですが」


〔つまり、地井はカラオケサークルに今回の事件の発端があるとにらんだのか〕

「いえ、まだ可能性の段階です。千代田区に住んでいる飯賀さんと、川崎市に住んでいる三谷さんがなぜ地元でない大田区のカラオケサークルに入っているのか。その動機がわかればこのふたりはつながるかもしれません」


〔つまりどちらかが脅迫していたおそれがある、ということか。で、その原因になったのが二木ではないか、と。発想が飛躍しすぎているような気もするが〕

「私も二木さんがカラオケサークルに入っていたとは思っておりません。ただ、三谷さんの殺意を否定するには、今のところカラオケサークル絡みを検証する必要があります」

〔わかった。それじゃあこれから二木に聞いて、名簿も借りてくるよう手配しよう〕

「ありがとうございます。こちらでも捜査しますので、二木さんの供述はいつもどおり電子調書にアップしておいてください」


 通話を切ったれいに、かなもりはなにげないことを口にした。

「金を貸していた人物は総じて飯賀を殺すと不利益になる。脅されていた人物は殺すと利益になる。それだけを考えると三谷やが怪しくなるんですけど」


「事件が起こるのは、最大利益者のせいだとするのが一般的な推理だから一概に間違いとは言えないんだけどね。今回は最大利益を得る者とは限らないのよ。最も得をするのは与田さんだと思うけど、三谷さんは脅されなくなるという自分の利益のために手にかけないともかぎらない。それは金を貸していた市瀬さんや二木さんも同様ね。わずかでも自身に利益があれば、最も得をする人物が真犯人ではないということは往々にしてあるものなのよ」

「となれば与田の調書次第ってことになりますかね」

 それとともに短いチャイムが鳴った。



「言ったそばから与田の調書のようですね。大型モニターに映します」

 すでに金森が手を加えるまでもなく、調書がまとまっているようである。AIの学習能力は凄まじいのひと言だ。

「これで真犯人が割り出せるといいんだけど」


 玲香は大型モニターをタッチしたりスワイプしたりして情報を検討している。

「与田は殺していないと供述しているわね。荷物の配達が終わりに差しかかった頃に与田のスマートフォンへ電話があったそうです。声が割れていたそうですが、川崎市まで荷物を取りに来て欲しいと」

「与田さんの集配エリアを越えているわね。通常、そのエリアの担当ドライバーに引き継ぐ案件だと思うんだけど」

「飯賀からたびたびこの方法で呼ばれていたから、今回もそうだと思っていたらしいですね」


「そういえば飯賀さんのスマートフォンからの電話だったわよね。もう一度与田の通話履歴を確認できますか」

「前にチェックしたときは営業用のスマートフォンでした。勤務中はそれを所持していただろうから。配送会社のサーバーに侵入してスマートフォンの情報を取得しますね。それを飯賀の通話履歴と突き合わせれば、呼び出されたかどうかがわかりますから」


 あっという間に結果が表示された。

「与田の仕事用のスマートフォンへはたびたび飯賀から電話が入っていたようですね。ですが死亡推定時刻の直前には入っていませんね。時間を遡ればヒットするんですけど。ただ、三谷から電話があったようですね」


「三谷さんが与田さんに電話を。しかも仕事用のスマートフォンに。おかしいですね」

「接点があったのは確かなようですね。しかし仕事用の電話番号をどうやって知ったのか。そこは謎です」

「飯賀さんと三谷さんが通っていた昭和ポップス専門のカラオケサークルに与田さんは所属していませんよね。レトロ感のあるサークルって会員情報を電子化して保存しているとは思えないし」


「なるほど。だから土岡警部に借りるかコピーするかしろと言ったんですね。それにしても与田が三谷と飯賀と顔見知りなら、三谷と組んで飯賀を殺せるのか」

 金森は不思議に思ったようだ。

「でも、三谷のスナックは川崎区、飯賀の目撃情報は幸区。いくら隣の区とはいえ、殺しに行く時間がありますかね。与田も三谷が殺そうとしているのを知っていて川崎市に入ったとは思えませんし」


「与田さんの川崎市内での行動を線で表してほしいんだけど」

「宅配会社のサーバーから与田のGPS情報を取り込みますねっと、すぐに出来上がったか。AIは順調に捜査の手順に慣れてきているようですね。表示します」

 大型モニターに与田の集配車のGPS情報が線になって表示されている。


「これに停車していた場所と時間を表示できるかしら」

「あ、そうか。長時間停車していれば飯賀を殺して集配車で千代田区まで運べるってわけか」





(第8章B1パートへ続きます)

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