第24話 容疑者たち(B2パート)タイムテーブル
事務所に帰ってくると、さっそく
「電話で口論した後に、
「飯賀を呼び出したのは
「飯賀さんは与田さんを呼び出した。川崎市にいた飯賀さんは具体的にどの地区や店にいたのですか」
「飯賀が二木と口論していたのは幸区であることは、飯賀のスマートフォンのエリア検索で判明しています。つまり与田は飯賀に呼び出されて配達地域を越え、川崎市幸区に向かったと判断できます」
「飯賀さんを呼び出した三谷さんはどこから電話をかけていたのか、わかるかしら」
「川崎区のスナックからですね」
「ということは与田と三谷は目と鼻の先にいたわけか。で、二次対象者の調査は済みましたか」
「飯賀が電話で二木と口論していたときに、飯賀のそばにいた人物は六名です。そのうち飯賀となんらかの接点がある人物はひとりもいませんでした。
「具体的にはどんな六名なのかしら」
「帰宅を急いでいたサラリーマンがふたり。塾からの帰りだった高校生が三人。パブで働く女性従業員がひとりの計六名です」
「高校生が夜に出歩いていた。まあ塾の帰りならわからないでもないか。三人とも裏はとれているのですよね」
「もちろんです。三名が同じ塾から同時に出て、一緒に歩いて口論電話の現場を通過。そのままそれぞれの自宅へたどり着いたことがスマートフォンのエリア検索で判明しています」
「サラリーマンふたりも無関係なのよね」
「サラリーマンは別々の会社から帰宅を急いでいたようですね。時間的にヨーロッパサッカーの試合が衛星放送で流されていましたから、それを頭から観たかったと考えられます。ふたりとも地域の草サッカーチームに所属していますから知り合いでしょう」
「ということは高校生は三人ともそれぞれと面識があり、サラリーマンも互いに面識があったわけか。通常これだけだと疑いを外すわけにはいかないんだけど」
「いちおう防犯カメラや監視カメラの映像を取り込んでいますので、通行の一部始終はチェックできますが」
「ではそれを土岡警部に知らせないといけないわね」
「どの防犯カメラ、監視カメラをチェックすればよいのか、タイムテーブルにして作成してありますので、それを持っていってください」
金森は紙の束を手渡してきた。
「わかりました。それで、最後のパブで働く女性従業員、というのが引っかかるんだけど」
「三谷がいたのはスナックですから、パブとは違いますよね」
「どちらもアルコールを提供する店であることに変わりはないわ。場合によっては呼び方が違うだけで同じ形態ということもあるそうよ。ということはその女性従業員と三谷さんとの間に面識があるかもしれませんね」
「すぐに裏をとります」
金森は、女性従業員と三谷に接点がないかを調べ始めた。まあこのくらいであれば量子コンピュータなら数分で確認できるだろう。
「検索終わりました。女性従業員が働くパブと、三谷が酒を飲んでいたスナックは隣同士の店ですね。ということは、三谷とこの女性女性従業員には面識があった可能性があります」
その女性従業員が三谷に飯賀の情報を与えていたとも考えられる。しかし二次対象者とはいえ飯賀と接点のない女性従業員が、彼を見たとしても三谷の知り合いだとわかるものだろうか。
「その女性従業員の話も聞きたいところね。住所はプロフィールのここでいいのよね」
「はい、間違いないです」
「川崎市だから管轄外なんだけど、土岡警部を使って神奈川県警の協力を得ましょう。遅くないことを祈るしかないけど」
「遅くないこと、とは」
「真犯人が先に接触して殺害されていないともかぎらないわ」
「その場合、真犯人は三谷ってことになりますね」
「そこまではまだわからないわ。とくに今のところ日付をたどっているだけなんだけど時間まで確認しているわけじゃないし」
「それじゃあ時間を加味した詳細なタイムテーブルを作りますか。どこから情報を引っ張ってくればよいのかは量子コンピュータにメモリーしてありますので」
「頼むわね。近いところにいた、という与田さんにも三谷さんにも殺害不可能な時間帯の犯行かもしれないから。もしかしてそれ以外の人物が飯賀さんを殺したケースも考えられなくはないのよ」
そう。ここまで順当に容疑者が浮かんできたのも不自然ではあるのだ。
どこまでが量子コンピュータの手柄なのか。真犯人に踊らされているだけなのか。
「情報の処理が追いつかないわね。さすが量子コンピュータってところかな」
「まあ現場百遍といいますし、飯賀が自室に戻った時間を確認してみますか。生きて帰ったのか、遺体になって帰ってきたのか。それがわかるだけでも大ヒントだと思うんですけど」
「金森くんの言うとおりね。現場のメゾンド東京は廊下に防犯カメラは取り付けられていたけど向きが悪いから、死角があるのよ。いつどんな形で飯賀さんが自室に戻ったのかを確認しないと、推理も足元から揺らぐわね。量子コンピュータでどこまでわかるかしら」
「そうですね。出入り口の防犯カメラ映像をチェックして、まず飯賀が帰ってくる姿を確認します。帰ってきていたら、殺害は自室の中ということになるでしょうし、もし帰る姿が確認されなければ何者かに運ばれてきた可能性があります」
「飯賀さんと同じ階の住人にも聞き取りをしたほうがよさそうね」
「どうしてですか」
玲香はこめかみを人差し指で軽く叩く。
「おそらくだけど、遺体を運んだ人物と室内に入れた人物が違う可能性もあると思うのよ。その場合、遺体は飯賀さんの部屋の外に置かれていたのではないか。であれば、同じ階の住人が大きな荷物を見ていたかもしれないわ」
「もちろん飯賀さんが変装して帰ってきたならすぐには判別できないとは思うけど。それなら川崎市で口論の電話をしていた飯賀さんの姿も確認しないといけないわね。それも土岡警部を通じて神奈川県警に頼んでみましょう」
情報が多すぎるけれども、それらはいったん忘れて捜査の基本に立ち返るべきかもしれない。金森の言うとおり「現場百遍」である。
それで密室トリックを看破しえたのだ。きっと真犯人につながる情報が見つかるだろう。
量子コンピュータのAIとともに防犯カメラ映像を観ることで、なにかわかるはずだ。
(第7章A1パートへ続きます)
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