第19話 初陣(B1パート)問題児

 いいれいは勉強もよくできたようだ。不可の項目がひとつもない。しかし出身高校のサーバーからは、他の生徒たちとたびたび小競り合いしていたとの情報が入手されている。勉強はできるが問題児、という認識だろうか。ただ、この情報が今回の殺害に結びつくのかどうか。


かなもりくん、飯賀礼次さんの高校時代の交友関係を調べられますか」

「すでに始めています。量子コンピュータからも高校時代にいさかいがあった旨の報告がありましたので。もしかするとその頃の因縁が今回の事件につながった可能性もあると思いましたので」

「私は、高校時代の諍い相手は今回関係ないと見ています。ちなみに飯賀礼次さんの卒業アルバムは入手できそうですか」


「あ、高校のサーバーに侵入した際、交友関係を知るためにも先ほどダウンロードしてあります。大型モニターに映しますのでこちらまで来てください」

 映し出された飯賀礼次の卒業アルバムを見ると、ひとりだけ別の写真を合成されていた。つまり卒業式には出ていなかったということか。

 なにか病気や怪我をしていたのだろうか。それとも卒業式でなにかあるのではないかと警戒して出席を見合わせたのだろうか。


 大型モニターはタッチパネルになっているとのことでスワイプでページを次々とめくっていくと、玲香はあることに気がついた。


「これ、行事の写真に飯賀礼次さんは一枚も写っていませんね。それと部活や委員会の写真にもいないわ」

「え、そうですか。すぐに確認します」

 そういうと金森は端末を操作する。結果はすぐに出た。

「AIのパターンマッチングをかけても確かに飯賀礼次が写っている写真は一枚もありませんね。だいたい卒業アルバムは全員の活動記録が見られるようになっているはずですが。なにか載せられない理由があったのでしょうか。とんでもない不良で、高校側も存在を抹消したかったとか」


 金森の推理は的外れとは言えないまでも、せいこくを射ていないような気がする。本当に存在を抹消したいのなら、目立たないところに載せればいい。時が記憶を風化させるのだから。

 それが意図的でないにしても、行事にも部活にも委員会にも顔が写っていないとは。

 卒業アルバムを編集した人物の意向が反映されている、と見るのが正しいか。


「この卒業アルバムの編集者は誰ですか」

「普通は最終ページに名前があるものですが。たかふみ、ですね。えっと、この高校の国語教師だそうです」

「この人物と接触したいので、プロフィールをお願いします」

 程なくしてプロフィールが印刷された。裏どりがこんなに簡単にできるとは、やはり量子コンピュータは侮れない。これからの捜査の仕方が一変する可能性すらある。


「高田史雄、高校国語教師。卒業アルバムの編集者。飯賀礼次さんの身元引受人、ってこれ本当なの」

「間違いありませんよ。この高田史雄が飯賀礼次の高校時代の身元引受人をしていたようです。進路相談も高田と飯賀礼次と飯賀の祖父との三者で行われたそうですから」

「そうであれば、飯賀礼次さんの人となりを知るにはうってつけの人物になるわね。高田史雄さんの住所と連絡先と写真がわかっているから、面会するのは容易いわ」


「高校時代の人となりが事件に関係あると見ているんですか」

「いえ、ただすぐキレるとか感情を溜め込むタイプとか、そういうものを知れば犯人を推測しやすいと思っているんだけど」

「僕はそういうの関係ないと思うんですよね。僕だって高卒だけど、今ここで働いていますよね。高校当時に今の状況は想像すらできませんでしたから」


「でも、その頃からコンピュータを活かした職には就きたかったのよね」

「まあそうですね。でもシステムエンジニアになるには大卒からってところが圧倒的なので、どうやってハッキング能力を活かせるかは悩んでいましたね」

「そういう葛藤を知ることで、人となりがわかるのよ。そうすれば、あの頃はああだったけど、亡くなる前はこうだった、というのが見えてくる。変わった部分を知ることで犯人像を見つけやすくなるのよ」

「であれば、こいつに頼んでみましょうか。最近の飯賀礼次の言動をまとめてみるんです」


「残念だけど、それじゃあ証拠にならないのよ。きちんと論理でつながっていないと、裁判官を納得させるのは難しいの。たとえ事実であろうと、強制された自白や不適切な捜査とみなされたらクロでもシロになる」

「それじゃあ亡くなる前までの交友関係を洗ってみましょうか。これは各所の聞き込みでも同じ情報は拾えるはずですから、手間をかなり省けるはずですが」

「じゃあそれを頼みます。少し時間がかかるでしょうから、私はこの高田先生に会ってきます」


「連絡もなしで、ですか」

「警察と名乗るつもりはないし、単に飯賀礼次さんから高田先生の話を聞いたことがある、という接点だと了解してもらう予定だけど」

「さすがに警察と名乗らないのは反則では」

「身分を偽るわけではないですからね。言わないだけで」

「そういう駆け引き、僕は苦手だなあ」


「まあ、私もコンピュータは普通に使える程度だから、金森くんから見れば苦手な部類よ」

「そういうものですか」

「まあ餅は餅屋っていうじゃない。それぞれ専門分野で全力を尽くしましょう」

 玲香は自室で身だしなみを整えると、高田史雄の関係先を目指して外出した。





(第5章B2パートへ続きます)

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