第10話 れくいれむ
「さてさてみんな、本当にお疲れ様。問題なく上首尾だったようだね。
今日は盛大に祝杯をあげよう。ウイスキーにワインにビール、それに合いそうなおつまみもたくさん用意しておいたから。ほな始めるよ、乾杯。」
鷲尾そう声を掛けて部屋にグラスの音色が響くと、三人の喉越しの音だけが聞こえる。まずは一つ目の山を越えて喉が渇ききっていたせいか、すぐにグラスの中は空っぽになる。
「それにしてもリッチ、いや、ここでならコードネームじゃなくてもいいか。真之、久しぶりだね。6年ぶりかな。相変わらず鯨みたいな体型だね。」
鷲尾は鯨井へ新たにグラスへウイスキーを注ぎながら悪態をつきつつ、久しぶりの再会に笑みを浮かべる。
「晋太郎、久しぶりだね。お前が酒好きにしたせいだわ。ちなみに、これでも少し痩せて今は98キロくらいだよ。
雪さん、今回成功した暁には褒美をくれると言ってましたよね。頭を撫でてもらうほうがいいかな。それともお尻を・・・」
鯨井は昔はさらに巨漢だったことをさらりと暴露すると、ウイスキーロックを一気に飲み干す。鷲尾からウイスキーのボトルを取ると、自分でグラスにウイスキーを注ぎながら、それ以上に重要事項である早乙女からの褒美が気になって仕方がない。
「約束は約束だからいいけど、頭を撫でるほうにしてもらえないかな。実はお尻を叩くなんてプレイで興奮するタイプではないから。」
早乙女は二杯目のワイングラスを回しながら小声でSMプレイに興味がないことを仄めかすと、頬を赤らめて下を向く。
「わかりました。頭を撫でてもらえるのであれば問題ないです。では10分で。」
鯨井は早乙女が話し終える前に食い気味で褒美の時間を要求する。
「2分。」
「5分。」
「それで。」
褒美の時間はおおよそ鯨井の想定していた時間で確定したところで、鷲尾がおつまみを口に含みながら口を開く。
「今回は所謂陰キャの早乙女がお姉さんキャラを繕っていたようだけど、うまくハマってて良かったよ。引き続きよろしく頼むね。失敗した時は躊躇なく切り捨てちゃうからね。」
鷲尾が話している最中、鷲尾は隣で喉を鳴らしている猫を撫でながらそう言うと、ソファーでは早乙女が隣に座っている鯨井の頭を撫でているという地獄のような環境が生まれているも、誰もそれに触れることはなく飲食を続ける。
「あれ、もう終わりですか。日中の疲れもあったから寝そうでした。ご馳走様です。」
5分後に鯨井が褒美を受け取り終えた頃、パソコンで作業をしていた鷲尾が座っている椅子を180度回転させて体をソファーへ向けて再び口を開く。
「ほな、真面目な話でもしちゃおうか。我々”れくいれむ”のネクストオペレーションの概要について説明するよ。
我々の真の目的については声を掛けた時に話しているから改めて伝える必要もないよね。まずは端的におおまかな作戦の手順だけ。
今回の一件を機に、真之はカラオケボックス店で雪さんと田中を撃ち殺したことになってるし、鴨野と一緒にいるところをカメラにもしっかり捉えられているだろうから、警察の厄介になるはずだから、その時は大人しく捕まっておいてね。具体的には後ほど話すけど、逮捕されることはないだろうからその点はご安心を。
その時に実行してもらいたいことがあって、”ガイア”の救済者であることを説いてほしいんだよね。警察内部に友人がいるから、警察からメディアそしてヒトに拡散してもらう予定だよ。その拡散が終わったら次に―」
―
次の日の朝、鷲尾は鳥のさえずりで目を覚ますとカーテンの隙間からは太陽光が差し込んでいる。ベッドから目を細めながら起き上がってカーテンを開ける。
鯨井は3人掛けのソファーに仰向けで転がっており、鷲尾の出す生活音にも動じずに鼾をたてて微動だにしない。
すでに早乙女の姿はなく、テーブルの上にはメモ用紙に”また”とだけ書かれて置かれている。
鷲尾は充電していたスマートフォンを手に取る。
「近いうちにご飯おごるね。」
それだけ打ち込むと、”蠍”と書かれた宛先へ送信する。
”れくいれむ”はただ一つの目的に向かって突き進む。
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罪人とは のねのら @NonameNolife
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