第9話 浄化
「母親が人質に取られているんです。それに先ほど鯨井という男に口座からお金を引き落とすよう言われて500万円渡してしまったのです。助けてくれませんか。お願いします。」
鴨野は鷲尾に向かって焦り口調で今まで起きたことを事細かに説明するも、鷲尾は詳細については警察に説明するよう言うと、次第に警察車両のサイレン音が近づいてくる。
「大地の浄化への第一歩ですかね。」
鷲尾はそう呟くと、公園へ到着した警察のほうへ向かって行く。
鴨野は鷲尾の呟きにデジャヴにも似た感覚に陥るも、その原因ははっきりとしない。
「あのベンチに座っているのが詐欺行為の疑いがある鴨野という男なのですが、錯乱状態の可能性が高いです。母親が人質に取られているとか、お金を取られたとか。終いには一緒にいた男がカラオケボックス店で人を撃ち殺したとか。詐欺師であれば口から出まかせの可能性もありますが、とにかく言うことが目茶目茶なので詳しく聞いてあげてください。
拘束はもちろんしていないので、逃げられないようにお気を付けください。」
鷲尾は鴨野へ目線を向けながら警察にそう耳打ちする。
二名の警察は鴨野へ声を掛けながらゆっくり近寄っていくとベンチに座っていた鴨野が立ち上がり、助けを求めてわめき散らかしている。警察は落ち着くよう制止して、詳しくは署で聞くと言って警察車両へ向かう。
すでにそこには鷲尾の姿は無かった。
―
同日たそがれ時、早乙女と田中はとある日に共に居酒屋へ行った後に立ち寄った公園のベンチに座っていた。
二人はカラオケボックス店を出た後、別々に行動して現在に至る。
「早乙女さん、こんばんは。無事に来られたということは今日の作戦は成功したのでしょうか。」
「こんばんは。今日はありがとう。お見込みの通り、そういうことになるわね。上手いこと協力人がやってくれたみたい。今日の報酬は少ないけれど先に渡しておくわね。」
そういうと早乙女は田中に現金5万円を手渡しする。日中に画策していたこともあってか、二人とも疲弊しているも、清々しいすがしい顔をしている。
「そうそう、我々の、というよりあなたの今度のことについて話しましょう。」
田中は毅然とした態度で早乙女を見つめて頷く。
「すでに察していると思うけれど、あなたはわたしたちが出会う前から今回の作戦のピースだったのよ。
まずは発端から話す必要があるわね。実は田中君の彼女と名乗る方から相談があったの。その内容が、彼氏のあなたが罪を犯している可能性があるものの、警察に通報して捕まってほしくないというものだった。
あなたのことについて調査を進めていくと実際に詐欺行為をはたらいていることを突き止めたわ。そのまま彼女に報告して警察に通報することもできたのだけれど、あなたから蜜の香りがしたから、協力して詐欺集団を潰す、かつ、お金儲けでもしようと考えたわけ。
あとはあなたが持っている情報と繋ぎ合わせれば辻褄が合うんじゃないかな。」
田中はさほど驚かずに理解したと頷いて、早乙女に伺う。
「まず一点目に、僕は警察に突き出されるのでしょうか。共犯である程度情報を持っている以上、見逃されるとは思っていますが、念のため確認させてください。
それと二点目ですが、あなたたちはどういった組織なのでしょうか。詐欺集団というわけでもなさそうなのですが、差し支えなければ教えていただいてもよろしいですか。」
「よく状況を理解しているのね。あなたを悪いようにはしないから安心して。あなたの彼女にも詐欺を行ってはいなかったと伝えるわ。ちなみにカラオケボックスの一件のあと、一緒にいた鴨野は警察に捕まったようよ。鴨野はわたしたち二人が死んだことになっているから、生きていると知られるまではある程度時間があるはず。真っ当に生きるかどうかはあなた次第といったところかしら。
二点目については、知っていることは話してあげたいところなのだけれど、わたしのあずかり知らぬところがほとんどなの。ごめんなさいね。
別の用件があるからわたしはこのあたりで失礼するわ。またどこかで会いましょう、というのはこの場合不適切ね。お元気で、さようなら。」
早乙女はそう伝えると、足早にその場を去り、とある場所へ向かう。
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