青葉と電話
「……椎菜の奴、いつになったら大学来るんだろうね。」
空気を換えようとした青葉の発言であった。それを分かってはいるのだが、沙織もおずおずと口を開く。
「家にはいるんだろうけど、ラインしてもダンマリだしね。」
「椎菜があんななってから隆二もめっきりサークル来なくなっちゃったしね。」
また別の人間の名前が挙がる。彼女たちの悩みの種が減ることは無く、むしろ増えている。沙織も一つ大きなため息をつく。
「まあ、隆二君どう見てもシイナちゃん目当てだったしね……。こうなるのは必然、っていうか……。」
「あーあ、いよいよ我らが廃墟研究会も終わりの日が近いか……」
「そういう事は言わないお約束―。」
こう言っているが、沙織自身は青葉の発言を否定しない。ただでさえ暗い部室に、より一層暗雲が立ち込める。せめてこの雰囲気を明るくしようと、青葉は軽いトーンで謝る。
「ごめんごめん、って、そんなことりレポートレポート……。」
「そんなことって、一応サークルの一大事なんだけど。」
沙織も青葉に軽口で応える。各々自分の作業に戻る中、青葉は再びうんうん悩みだす。
「にしてもこのスワンプマンって何なの?結局人間?それとも人間じゃないの?」
「んー、まあ、結局は人間ではないんじゃない?要は真似っこでしょ?」
と言ってはいるが、沙織も自信を持って言っているわけではない。二人で明確な答えの出ない曖昧な会話をしていると、青葉の携帯が震える。青葉はごそごそとポケットから携帯を取り出す。その様子を見ていた沙織が尋ねる。
「誰から?」
「隆二くんから……」
噂をすればなんとやらというやつか、にしてもすごいタイミングだ。同好会に来なくなってから、今まで連絡一本よこさなかったというのに。怪訝な顔をする沙織と対照的に、青葉は何の違和感も覚えていなさそうな表情で、電話を取る。
「もしもし隆二君、久しぶりー……って、それホント!?うん、……うん、分かった、すぐ行く。」
電話を切る青葉、ただならぬその表情に、沙織も恐る恐る声をかける。
「………なんかあった?」
沙織の問いに、青葉もごくりと唾をのみ、答えを口にする。
「シイナが、帰って来た、って……」
「マジか!今どこにいるって!?」
さっきまでのゆるゆるとした雰囲気から一転、一気に真剣な表情になる。隆二から位置を教えられていたらしく、青葉はスマホの画面を見ながら席を立ち、おぼつかない足取りで動きだす。
「えーと、こっち……、じゃなくて、やっぱりこっち!」
「頼むから迷子にはならないでよ……」
振り回されてため息を吐く沙織、しかし、内心新しい風が吹きそうな期待に胸膨らませるのであった。
ヒトデナシの宴 尾乃ミノリ @fuminated-4807
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