第2話 うちうのほうそく

俺は、京都府右京区は梅津段町に住んでいるギタリスト。寺町秋生(てらまちあきお)。35歳。プロギタリストとして、京都府内で活躍しているインディーズミュージシャンのオケ用レコーディングギタリストを行う傍ら、今日のような休日には、京都市内の某所に現れ、ギターを演奏する。


今俺は、音楽スタジオ兼自宅であるレコーディングルームにて、今日のストリート演奏のギターをセレクト中。今日はどれにしようかなあ。


俺は、昔っから憧れていたことがある。それは、美人歌手であり、ブログの歌姫、柴田淳と一緒にステージに立つことだ。それを、ずっとずっと、願ってた。あほみたいに、ずっとずっと、心に念じて、神様にお願いしていた。


彼女の音楽を初めて聴いたのは、高校生の時。当時僕の女性の好みは薄幸でほっておけない感じの女性がタイプだったから、ドンピシャだった。


彼女の音楽は、全体的に暗く、陰鬱な印象だが、その言葉の端々に、芯の強い女性の本性が隠れている気がして、何かドキドキした印象をもっている。また、あるいは明るい曲調の曲では、気丈に振る舞っているのではないかという危惧さえ俺に抱かせた。


そんな彼女の音楽で最も惹かれたのは、2013年のビルボードライブ音源。ジャズアレンジされた楽曲は、どれもASMRのように耳を擽り、癒す音楽で、俺の心の琴線に触れた。


今日は、ジャズアレンジで柴田淳の音楽を、インストゥルメンタル音楽で演奏したいと思い、選んだギターはヤマハのマイクスターンモデル。(これは、パシフィカを原型とした、テレキャス風モデル。かつてマイルスデイビスのバックバンドとして起用されたマイクスターンが、ジャズguitaristとしての地位を確立した際に用いていたギターモデルだ。)


京都は高瀬川にある、京都市立立誠小学校をリノベーションしたホテルの前に有る広場を借りて、今日は演奏だ。(ザ・ゲートホテル京都高瀬川byHULIC)。


楽曲は、元からジャズナンバーである、『メロディ』と『ハーブティ』に加えて、彼女の専売特許ともいえる、名曲『月光浴』と『片思い』を選曲していた。


そしたらだ、俺は知らなかった。まさか、彼女が今日たまたま京都にいるなんて。


あとで、彼女のXを見てみると、書いてあったことに驚いた。『あー、あたしの歌やってるー。許可取ってもらってないぞー(笑)』と。そして、かわいいと思った。


曲順は予定では月光浴→メロディ→ハーブティ→片思いだった。メロディを演奏し終えたところで、やって来た。ご本人が。


最初は、誰だこの人?と思った。なにせ、思ったより小さかった。どこのお姉さんが、俺の演奏に割り込んできたのかと思った。身長は154㎝、僕の158㎝よりも4㎝小ぶりであることは、数値よりも見た目に顕著だった。身長は、もしかして150㎝くらいと思うくらいに見えた。


演奏の後は、なんと近くのライブハウスに招待してもらい、急遽法事で来られなくなったというサポートメンバーのギタリストの代わりに出てくれと直談判された。


もはや、この日の夜の演奏は、無になるかというときに、昼間放心状態で放浪していた彼女は、俺を見るや否や、アポの代わりに、音楽に迎合したというわけだ。なんと粋な口説き方だろう!


俺は、二つ返事でOKした。なにせ、馬鹿みたいに、いつか柴田淳のバックバンドになれるように、必死で世の中には全く市販が存在しない柴田淳のバンドスコアをコツコツ独自に作成して、完コピしていたからだ。しかも全曲!


楽曲は、『雲海』『救世主』などのロックなテイストの音楽に始まり、『ノマド』『反面教師』『轍』などなかなか癖の強い音楽もさせてもらい、終盤には『花吹雪』『ひとりぐらし』などの個人的推しも選曲されており、俺はもはや目を丸くせざるをえなかった。なにせ、『あきおさん、こういう曲が好きなんじゃないかな~と思って。』というではないか!なぜわかる!?怖い!


LINEを交換した結果、得られた返答によると、僕のことは前々から動画配信によってしられていたらしい。彼女は非常にエゴサーチが好きなたちで、それによって傷つくこともあるが、自分の音楽が広まっていることに、少なからず喜びを感じていたようで、京都の1ギタリストが、メタル音楽の傍ら柴田淳をしばしば(柴田淳だけに)弾いていたことに、一目置いていたらしい。


俺自身は、自分の演奏を、自ら撮って配信したことはなかったが、幸いなことに、奇しくも無許可で、たびたび俺の演奏を撮っては配信している輩がいるようで、彼女の目に留まった。しかも、その配信者は毎回同じではなく、もはやその誰もが毎度違うタイトルで配信しているが、幸いにも、グーグルのアルゴリズムが、俺が演奏時飾っている自身の名前を掲げたプラカードの文字を読解し、柴田淳が頻繁に閲覧している動画ジャンルのアルゴリズムに引っかかる奇跡がおき、目にとまった。


なんだ、神の仕業か?ありがたいなあ!


その日はもちろん眠れなかった。興奮のあまり。

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