第11話

続いて準々決勝、同じく埼玉の寺谷高校だ。


 一新木

 遊佐野

 投筑波

 捕八木ケ谷

 左黒崎

 三長谷川

 右佐々木

 二馬田

 中向井


 1ー0で迎えた五回裏、筑波先輩のカーブをスリーベースヒットにされてしまったが、その後を危なげなく抑え、2ー0で勝った。


「やっぱり筑波先輩は凄いなぁ。」

 長谷川が呟く。

「そりゃそうだ、なんせ筑波先輩なんだから!」

「いや、それ答えになってないぞ。」

 田んぼブラザーズが話す。

「長谷川は筑波先輩の何が凄いと思う?」

 俺は長谷川の提案や助言にかなり助けられている。そんな長谷川が筑波先輩にどんなことを言うのか気になった。

「うーん、改めて聞かれると………でも、球筋の変化量かな。」

「そりゃそうだ!俺だって未だにキャッチミスりそうになるんだから。」

「そーいやお前、前の試合の時ポロポロしてたな。」

 雲井が笑いを堪えるように言う。

「うるせぇ!お前もやったら分かるよ!」

「悪いが、俺はキャッチャーになることたぁないから無理だな。」

「じゃあ文句言うんじゃねぇ!」

 賑やかだなぁ。







 準決勝、群馬の志田高校。


「ここ最近なかった快挙だ!だが、気を抜かずに勝ちを目指すぞ!」

「「「「「はい!」」」」」


 一新木

 遊佐野

 捕八木ケ谷

 左黒崎

 三長谷川

 右佐々木

 二峰岸

 中雲井

 投菅野


 試合が開始された。

「いやぁ、今回勝っても次投げられるかなぁ。」

「肩キツそうですか?筑波先輩?」

 隣にいた筑波先輩の呟きに言葉を返す。

「うぅん、そうかもねぇ。監督に肩に少しでも違和感があったら言えって言われてるんだ。そしたら絶対投げさせないって。」

「そうなんですね。」

「うん、無理して使って選手として短命になることは絶対に許さないって言われてるから。」

「あぁ、確かに言いそうですね。でも、勝つには無理するのも大事なんじゃないですか?」

「そうなんだけどねえ。前に、監督がエラーで負けたって話は聞いてるかい?」

「はい。」

「その時投げてた投手がドラフトでスカウトされたんだけど、三年で肩を壊して結局戦力外になったんだって。高校の時に全ての試合を先発していたらしくて、監督はそれを見て選手に無理はさせないと誓ったらしいよ。」

「へぇ、せんせ…監督にそんな過去が。でも、そんな話をどこで聞くんですか?」

「ん?あぁ、公式試合の後は必ず監督が食事を奢ってくれてるんだ。酔った監督はお喋りだからなんでも教えてくれるよ。」

「なるほど、にしても奢り……」

 食べ盛りの俺としては、想像しただけで唾を飲んだ。

「みんなの希望を出しあって多数決で決まるから、今の内に決めといた方が良いかもね。」

「おぉ………」

 定番は焼き肉かな。でも希望だけなら寿司とか高級な店でも行けるのか……?

 いや、でも教員の給料は低いって中学の社会の内藤先生も言ってたな。ここは食べ放題の焼き肉の方が監督の懐にも響かないかな。

 それに俺も焼き肉が嫌いってわけじゃないし。

「あ、筑波先輩。」

「なに?」

「先輩は監督に奢ってもらったご飯覚えてますか?」

「あぁ、参考にするんだね。」

「はい。」

「えっとねぇ……焼き肉、ラーメン、中華料理……」

 うんうん。

「お好み焼き、和食、うなぎ、寿司……とかかな?」

 なんか……思ったより良いの食べてる………?



「「「「「"うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!"」」」」」


「なんだ?」

「おっと………」

 五回表、菅野先輩が相手の四番打者にグランドスラムを打たれてしまった。

「伊那、次の次出番だ。」

「え?はい。」

「次は一旦峰岸に任せる。お前はしっかり準備をしておけ。」

「分かりました!」


「頑張ってね。」

「はい!」





 七回表、点差は0ー5で負けている。ここは一点も渡しちゃいけないな。

 相手は八番打者。

 今日は調子が良いと八木ケ谷先輩に伝えている。誰でも抑えられる気がする。

 一球目ストレート。相手は見逃し。

 二球目ストレート。相手は振り遅れて空振り。

 三球目ストレート。球の下を振って空振り三振。

 次に九番打者。

 一球目ストレートを打ち上げて捕飛。

 次の一番打者。

 一球目ストレートは相手のバットに当たってファウル。

 二球目チェンジアップを待ちきれず空振り。

 三球目ストレートを振り遅れて空振り三振。


 やっぱり今日は調子が良いぞ。

「良いぞ伊那。今日は球が走ってるな!」

「はい、肩が絶好調なんです!」

「あぁ、バックスクリーン見てみろ。」

 ベンチに向かっている途中、八木ケ谷先輩の指を追ってそれを見ると、ストレートの球速が121キロと表示されていた。

「マジか……!」

「やったな伊那!この調子で、無失点行くぞ!」

「はい!」



 七回裏、雲井がヒットを打ったものの、調子に乗って俺が打ったことでゲッツーとなってしまった。ベンチに戻るとき、めっちゃ睨まれた…………

 そしてそのまま無得点でチェンジ。



 八回表、相手は二番打者。

 一球目をストレートで空振り。

 二球目スライダーが甘く入り、左中間を破るツーベースヒットを打たれてしまった。

 くそ、気ぃ抜いてたかもな。しっかりしないと!

 相手の三番打者。

 一球目カットを三遊間を抜けるかと思いきや、長谷川のダイビングにより相手の二走が戻ろうとするも佐野先輩の神判断でアウト。

 無死二塁から一死一塁とかなり楽になった。

 相手の四番打者。

 一球目高めのストレートが見逃しでストライク。

 二球目外角低めいっぱいのカットを振ってストライク。

 三球目チェンジアップは見逃しボール。

 四球目スライダーに釣られて空振り三振。

 相手の五番打者。

 一球目カットはファウル。

 二球目ストレートを流し打ちされてヒット。

 一死一三塁のピンチだ。

 

 ここでマウンドで話し合いをする。

「すみません。」

「気にすんな。どうします?佐野先輩?」

 八木ケ谷先輩が俺の肩を叩いて励ましてくれた。

「…長谷川、守備に自信、あるんだよね?」

「はい。」

「なら、三塁方向に打たせよう。相手は右打者だから引っ張らせてくれ。後はゲッツーで終わらせる。」

「了解っす。伊那、いけるな?」

「はい。」



 試合再開。

 相手は六番打者。

 一球目低めにストレート。相手は見逃し。

 二球目も低めにストレート。三塁方向に飛んだもののファウル。

 三球目、ここで仕掛ける!

 チェンジアップの変化量を敢えて少なくした。

 相手は絶好球だとばかりに球を叩き、鋭いゴロが三塁方向に飛んだ。

 頼む長谷川!

 俺の祈りが届いたのか、長谷川はグラブで球を掬い上げると、そのまま佐野先輩のいる二塁まで投げ飛ばした。

 俺より速ぇ………

 そう思ってる間に佐野先輩がキャッチして華麗に一塁に送球。新木先輩も余裕とばかりに足を広げ、作戦通りにゲッツーにすることが出来た。




 八回裏、八木ケ谷先輩からだ。

 相手の四球目をレフトに流し打ち。一塁を踏んだ。

 次に黒崎先輩が粘りに粘って八球目、ライトスタンドへのホームランで二点を返した。

 2ー5

 その後、長谷川と佐々木先輩が出塁するも、俺を含めた三名がアウトでチェンジとなった。



 九回表。

 相手は七番打者。

 一球目スライダーをセンター方向に返されるも、雲井のファインプレーでアウト。

 次に八番打者。

 さすがにストレートに慣れただろうから、今回はカットでいく。

 一球目カットは三塁方向にファウル。

 二球目カットは一塁方向にファウル。

 調整してきてるな。

 三球目はわざと少し力の抜いたストレート。

 相手は待ちきれず空振り三振。

 バックスクリーンを見てみたら球速が90キロで大分遅く投げたなと自分ながら驚いた。

 次に九番打者。

 さっきは捕飛だったから、今度は慎重に来るかな?

 一球目ストレートを見逃しでストライク。

 二球目もストレートを見逃しでストライク。

 三球目チェンジアップを待ちきれず空振り三振。

 なんとか大役は完遂出来たかな。後はチームの頑張りを見守るだけだ。



 九回裏、新木先輩が焦ったのかファーストファウルフライ。

 佐野先輩と八木ケ谷先輩がポテンヒットで一二塁を踏んだ。

 黒崎先輩が強いライナー性の当たりを打つも、相手のセカンドがジャンピングキャッチでアウト。

 次は長谷川だが、代打が送られ打席に立つのは斎藤先輩。やる気十分といった様子でスイングする。

 そして三球目、真ん中高めに来たボールを鋭く振り抜き、レフト方向に大きく弧を描いて飛んでいく。

 ホームランかとベンチが沸き立つが、相手のレフトが大ジャンプで捕球してしまい試合終了。


 花里高校は準決勝で敗退となった。

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