コインランドリー
秋晴れの日曜日、コインランドリーに来た。
京都競馬場で秋のマイル王決定戦・マイルチャンピオンシップ(G1)が開催されるこの日、福島市内はとても十一月中旬とは思えない暑さだった。
秋の福島競馬もまさに開催されている秋の暮れ。夏の福島が熱射地獄なのは近年知られてきているような気がするが、さすがにこの季節は秋めくものである。遠方から来た人はさぞ驚いたことだろう。もうすぐリンゴが本格的に出回る時期とは思えない陽気だ。どうかしている。
あまりに暖かいので不意に「辛いものが食べたい」と思った私は早めの昼食に担々麺を食べた。
店を出た後は香辛料の作用か汗ばむくらいで、とはいえ季節違いの半袖で出歩いていた私は「さすがに半袖は浮いてるかな」と不安に思った。
けれど、社宅の近くで半袖で会話しているファミリーを見かけて、「ですよね」と内心安堵した。
やっぱり今年の気候はどうかしている。(安堵はどこへ)
コインランドリーのお世話になり始めたのは社会人になってからだ。
会津のアパートでは現在も学生時代の洗濯機を使い続けている(長生きしてくれよ)が、日中に洗濯をし忘れたときや急な雨の日などに、ときどきコインランドリーを使っている。
乾燥機だけでも重宝ものだ。家で洗ったものをランドリーバックに詰めて持っていけば、だいたい十五分くらいでぱんぱんに乾く。会津は冬になると露骨に曇天の日が多くなる。外に干してもなかなか乾かないので、どうしても次の日に間に合わせたい時などは時短を兼ねてコインランドリーに行く。乾燥機だけなら二百円程度で済むので、経済的である。
さて店内に入り、一番小さな機械(という表現でいいのだろうか)に洗濯物を放り込む。洗濯の費用は四百円。安い。一人分の洗濯物なのでさほど量はない。なので選ぶ機械も小さめでよいのだが、場所によっては六百円くらいからの店舗もあるので、四百円という数字には感動した。
あとは待つだけ。待ち時間のデジタル表示は30を示している。私は無人の店内で、待合用の椅子に腰かけてくどうれいんのエッセイを読み始めた。前回の続きのページをぺらっと開く。もう半分以上読んでしまったようだ。名残惜しい気持ち半分、今度は彼女の別の作品も読んでみようと念じつつ、文字を目で追った。
日曜の昼、福島市のコインランドリーで読書をする自分がいるなんて、半年前は想像もしていなかった。
が、ちょうど妻から届いたLINEを見て、孤独感は薄らいだ。息子と猪苗代に遊びに行っているようで写真が送られてきたのだが、『今度は三人で蕎麦を食べにいこう』と結ばれていた。
次に会津へ帰る時の楽しみが増えて、心が躍った。離れていても気にかけてくれる人がいるというのは、それだけで自分の輪郭線が保たれるような気がした。
横械を動かし始めてから十五分ほど経ったとき、急に店の中がにぎわい始めた。
というのも、同じタイミングで何組ものお客さんが続けざまに入ってきたのだ。
もちろん、それぞれに別々の機械を動かしている。申し合わせたわけでもないだろう。
なので、同時に幾人ものお客さんが同時に集まってきたことに驚いた。ちょっと不思議な気持ちだった。
人間にとって、コインランドリーは日曜日の午前十一時くらいに使うのが一番ちょうどいいのだろうか。あまりに同時性の高い行動だったので、偶然にしては偶然らしくないように感じた。
時折機械に目を向ける。ぐおんぐおんとワイシャツが回っている。
私が待っている間に、他のお客さんたちはそれぞれに洗濯物を畳んでいた。
みんな、真面目な顔をしていた。
洗濯物を畳むとき、人間は真面目になるらしい。
お一人さまも、親子も、カップルでさえも、誰もが口数少なに衣服を丁寧に折りたたんでいた。
性別、年齢に関係なく、真面目に何かをするというのは美しい、と思った。
小さい子どもが熱心に何かに打ち込んでいるときの真剣な表情を、尊いと感じたことのある人は少なくないと考えるが、当たらずとも遠からずな光景。
なるほど、何かに専念するというのは、それだけで美を湛えるものらしい。
その後乾燥機を回して、せっせと取り出した衣類を畳むと、私は社宅へと戻った。
相変わらず空は高く、じりじりと暑かった。
*
私は『リコリス・リコイル』のファンである。
『リコリコ』のコミックアンソロジーの中に、ビロインの赤い方(
『これだよね』っていう納得と、シンプルなわかりやすさが、とても心地よい作品なのだ。
感動巨編でなくとも、ささやかな日常であっても、そういう心動かす一つ一つを掬い上げて、『これだよね』っていう納得を読者の方に届けられるようになれればいいと思う。
⭐︎マイルCSの結果は……お察しください。
エッセイの練習、練習のエッセイ みやび @arismi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。エッセイの練習、練習のエッセイの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます