第2話 風変わりな店

 ドアが開いて、やさしい風鈴のカランという音。


 チリン、その余韻に浸りながら島月は床に立つ。


 茶色の床だ。なにやら段差がある。


 雨の日みたいに、段差の向こうに布が敷かれている。あたりを見渡すと下駄箱があった。


「靴をいれるんですか?」なんて聞けないよな……


 島月勇は動揺した。しばらく縮こまっていると、店員が駆けつけた。島月より少し下で、俗にいう美少年だが、暗い目をしている。境遇は島月と同じだろう。


「あんた、新入りさん?」店員が聞いた。


「はい、そうです……」島月はうなずいた。


「そうですか。あちらへどうぞ」店員が指さした席に島月は座った。靴を脱ぐなんて、風変わりな店だ。


「はい……」


 メニュー表を見ているうちに、頼むメニューの考えが変わってきた。当初はコーヒーを考えていたのだが、あれ、紅茶がおいしそうだ。あれ、ココアがちょうどよさそうだ。


 じゃあ紅茶はあのお菓子に入っているから――「すみません」


「はい」


 さっきの店員がやってきた。


「【七つ星キャラメルの紅茶ケーキ】1つと、【ブラオンリッジ・ガーナ産スライスローチオ・バンティンググランドココア】を」


「は……はい」


 店員は厨房へ向かって、「【七星】と【ガーナココア】、それぞれ1つ!」投げやりに叫んだ。


「はいよー」


 厨房から聞こえてきたのは、明るい声だった。


 島月は一人寂しく泣いた。近くに漫画本が置いてあるのを見た。読んでみたかった本が何冊もある。


 だが今は読む気にはならなかった。泣きたい。泣いてしまって心を空っぽにしてみよう。


 そして、一から生まれ変わろう――島月は、考えがまとまる前から、伏せていた。


 さあ、いつでも来い!――頭の中に、熱い涙腺の声が響いた。

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APARTMENT LOVESTORY ~これがアパート公式で親友になった結果だ!~ 沼津平成 @Numadu-StickmanNovel

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