Day1
第1話 喫茶店へ
島月勇はいま、横ばいになりながら道を進んでいた。れっきとした道だ。歩道とは言えない、ほこりっぽく狭い道。
換気扇に囲まれながら、島月勇は進んでいた。時折吹き付けてくる暖かい風。励ましにもならない。
島月は、「今頃住人たちはエアコンを満喫しているに違いない」と思った。いや、Tアパートはおおかた扇風機か。
どちらにしろ暑い。別にウン十度を超えるからという理由ではない。涼しい要素が少しもないのだ。
このままじゃ島月がこの道を抜ける前にウン十度に達してしまうだろう。そう思うと余計体がばたついた。
汗が濡れてじっとりする。服にしみこんでいく。が、今は触れない。道が広くなって余裕を取ってからでないとだめだ。
島月は今、2つのアパートに囲まれた狭い路地裏を進んでいた。彼は大きなカバンを持ってきたことを悔やんだ。しかしもう戻れない。おそらく後半に突入したはずだ。
その証拠に光が増してきた。目に希望の色が浮かんだ。島月は泣きそうになる瞳をぐっとこらえながら、喫茶店へ進み始めた。
――もし誰かが道を進む三十のおっさんを見かけたら、許可を得ると写真に撮って、加工とやらをして、背景を海にするだろう。「素潜りするおっさん」などと、題名を付けて。
島月勇はそんなことを思いながら、この道を進んでいた。
「うぅ……それにしても暑い!」
島月はこらえきれなくなって叫んだ。この姿勢も疲れた。早く横になりたい。
――それでもなお進んでいると、島月は大通りに出た。
喜びと何かで胸がいっぱいだった。島月は子供のように駆け出した。赤信号を無視し、タクシードライバーを意味もなく呼び止めた。
警察には見つからなかった。
島月は喫茶店の前に立った。深呼吸して、彼は一歩、喫茶店へ踏み込む――
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