序章③ 報われないおっさん

 島月勇はパソコンに向かっていた。WINDOWSの性能は悪くない。小説投稿サイトでの彼の読み物、今日のPV数を足すと——。 


 島月勇は電卓を取り出し、ノートを見ながら足し算をしていった。数字が変わってゆく。

 島月勇はまた別の青いノートを取り出した。先ほどとは少し違う小柄のノートで、下線が入っている。男はそれに電卓に表示されている文字を移した。

 

 青い小柄のノートは「帳簿」という名前がついている。島月がノートをしまおうとすると、うまく入らない。赤く分厚い本を出してほこりを払う。島月が好きな長編だ。もうしばらく読んでいない。

 

 帳簿はもうこれで8冊目だ。このうち役に立ったアイデアは数えるほどしかなく、完結して「かたち」になったものはもっと少ない。

 

 それは島月勇の文章力に問題があった。島月はセブンスターをくゆらせながら、椅子に座って腕を組んだ。


「最近の小説指南には、文章力のアドバイスが少ない……」


 救いようもない、れっきとした事実であり問題だった。しかし、島月勇は解決することができない。自分なりの作法を見つけもしないのに、小説指南なんかかけたもんじゃない。


 島月勇はパソコンで時間を確認し、うめき声をあげた。


「もう二十一時か……」


――一体何時間、俺はパソコンと向かったんだ?


 計算の答えがわかる前に、とてつもない空腹が襲ってきた。


 彼はアパートから出て、まばゆい光を放つコンビニの自動ドアへ吸い込まれていった――。

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