生まれ変わったような心地

夕緋

生まれ変わったような心地

 リビングルームには3人並んで座れそうな大きなソファが二つあって、その間のローテーブルにはいつだって湯気の立つ飲み物が置かれている。

「今日もお疲れ様~」

 部屋に入った途端、優さんが声をかけてくれた。「お疲れ様です」とニコニコ笑顔で返す。

「今さ、生まれ変わったら何になりたい? って話してたんだよね」

 このはさんがその丸い瞳をこちらに向けて今まで話していたことをザっと教えてくれる。このはさんは美少女に、優さんは飼い主に溺愛されている猫になりたいそうだ。

「なんか、すごく”らしく”ない? 愛に飢えてる」

 優さんも笑いながらそれな! と返す。僕も同じくそれな! とニコニコ笑顔で返す。

「あっまた誰か来るね」

「ほんと? あぁ、果凛さんか。お疲れ様~!」

 背の高い美女の果凛さんが部屋に入ってくる。

「お疲れ様です」

「今、生まれ変わったら何になりたいか話してたとこ! まだツバサさんには聞いてないんだけど……何がいい?」

 話題が僕にフラれて、少し考えた後に「蝶がいいかもですね。ちゃんと天寿を全うする蝶」と言うと「ちゃんと天寿を全うするね、大事!」とこのはさんが笑いながら僕にグッドサインを出してくれた。

「で、果凛さんは?」

 問いかけると、果凛さんは即答した。

「生まれ変わりたくはないですね」

 実に果凛さんらしい返答だと思った。このはさんと優さんも「果凛さんはそうだよね」というような反応だ。

「でもさ」

 このはさんが口を開く。

「それその姿で言う?」

 果凛さんの長身美女アバターを指さしながらこのはさんが言うと、果凛さんも「まあ確かに」とニコニコ笑顔のモーションを使った。

「生まれ変わってるようなものだよねぇ~これ」

 優さんも中身が飲めないコップを持ちながら言う。

 僕らはみんな美女か美少女で、でも全員中身は男だ。気の合う者同士、バーチャル空間に集まって日々話をしている。みんな、全員男だと分かっていながら女の子として扱ってくれる。

 ここにいる間だけは現実を忘れてバーチャルな自分に没頭できる。それはある意味生まれ変わりに近いのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生まれ変わったような心地 夕緋 @yuhi_333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説