第19話 手当と水瓶
「難しいな」
「そうだね……」
茜の笑みの中に苦しみがあるのを感じながらも、かけられる言葉が見つからず、充はただうなずくしかなかった。
「さて、やるか」
「うん」
茜が気持ちを切り替えたように言うので、充もそれに
居間に上がると、茜は火の入った囲炉裏の近くに準備していた
「落ち着いているみたいけど、鎮静薬はいる?」
「ああ。この赤い
充は沙羅の顔を
(もしかして、この赤い痣は、銀星の目尻にあった紅の印と関係があるのかな……)
そう思いながら充は慣れた様子で、葵堂から背負って来た薬箱の中段から、
水薬の種類はこれまでと同じ、
それを小鉢に入れ、土間に置いてある
「はい」
「ありがとう」
今日の沙羅は水薬を飲む前からぐったりとしていて、小鉢を口元に近づけるとあっという間に薬を飲み干し、そのまま眠ってしまった。
(眠り薬はやっぱりいらなかったな……)
暴れた後の沙羅は鎮静化はされるものの、戦いの体を休めようとしないので、これまでは薬で眠らせていたのだが、今日はよっぽど走り回ったのか、もしくは体内の血の暴走が激しかったからなのか、薬を使わずとも眠ってしまったようである。
(よし……、傷を洗いますか)
充は、規則正しい寝息をたてている沙羅を
次に、別のきれいな布を二枚と直径五寸(=約十五センチ)ほどの
沙羅の体は山を駆け巡った際に木の枝に
このまま放っておくと
本来ならば、水瓶から
ただ、冬になり水がとても冷たくなっていることから、最近は
「水を交換してくる」
桶の水が薄ら
「ありがとう」
「うん」
二人は水汲みを交代をし、それぞれ傷口を丁寧に拭きながら、水瓶の置いてある土間と沙羅が眠っている居間を、何度も、何度も、行き来した。
三人しかいない部屋で、ちゃぱぱ、と水を
(今日は一段と水を使うな……)
何度目かも分からない水汲みのために土間に下りると、充は自分の腰のあたりまである大きな水瓶を
傷口を拭くため、清潔な水で傷を使わなければならないということもあり、沢山の水が必要なのは分かっているが、この水瓶の水は、沙羅のためだけにあるわけではない。山小屋を出入りしているほかの半妖たちの飲み水となっているのだ。
特に小さな半妖たちが利用しており、彼らは山の中の湧き水を探すのも苦労するため、ここにある水を頼りにしていると、風流から聞いたことがある。そして彼女も
彼らにとって生活する上で必要な水。
それを
そのため風流は、充に「ここの水を使っている者がいる」などと言ったのだ。充が茜や時子に頼まれて沙羅の治療をしていることは知っているものの、懸命にやっているし、茜が率先して沙羅の面倒を見ているため、あえて遠回しに文句を言っていたに違いない。
しかし、充は風流の気持ちも分からないでもなかった。
ひと月半ほど鷹山に出入りし、茜と沙羅と接しているうち「どうして茜は、沙羅のためにこんなに頑張れるんだろう?」と思っていたのである。
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