第17話 白銀色の髪をした少年
しかし、走り出してすぐに後ろから茜に怒鳴られる。
「充、山小屋のほうには行くな!」
落ち葉で滑る足元の悪い中を一心不乱に駆け抜けていたため、茜の言っていることを理解するのに
「そっちには小さい子たちがいる! 別のほうへ走れ!」
このまま沙羅を山小屋のほうへ誘導してしまうと、その子たちにも被害があると彼女は言っているのだろう。
分かってはいるが、それ以外にどこに向かえばいいか充には分からない。
鷹山を
「そんな無茶苦茶な!」
「言っておくが、被害が出たらお前の仕事が増えるだけだぞ!」
「僕が山小屋に戻る前に、茜が沙羅を何とかできないの⁉」
充は冬のどんよりとした
「
「茜の言いたいことは分かるけど、どっちに行ったらいいか分からないんだよ!」
息を荒らげながら言い返すと、茜が充に指示を出した。
「だったら、そこを右に行け!」
「は⁉」
「早く! 右だ!」
切迫した声で言われ、充は言われた通りに右側に行く。するとそこは落ち葉が敷き詰められた
だが、そこには今にも充に飛びかかろうとしている沙羅がいたため、充は
「うわっ!」
長い斜面のため、充は自分の意志とは反対にどんどん転がっていく。それでも頭は守らねばならないと思い、何とか腕で
ようやく動きが止まったのは、斜面から一丈(=約3メートル)ほど落ちたころだった。
「はあ、はあ、はあ……ぺっ、ぺっ……ぺっ」
充はゆっくりと体を起こすと、息を整えつつ、口の中に入った落ち葉や土を
斜面を転がって落ちたときに、入ってしまったのだ。
(苦い……。それに、口の中がじゃりじゃりする……)
一気に走ってきたせいで口の中はからからである。そのため
(水……)
充は正座をしていた姿勢から立ち上がると、息を整えながら、斜面を見上げた。茜たちがいるかと思ったが、すでに彼女たちの姿はない。沙羅が充のことを追うのをやめたのだろう。危機を脱したようなので落ち着いて考えごとができそうだが、充には一つ問題があった。
(えーっと、ここからどうやったら山小屋に戻れるのかな?)
辺りを見渡すも開けた場所になっていて、道のようなものはまるで見えない。
充はどの方角に向かえばいいのか分からず、ため息をついて、そこに腰を下ろした。
毎日隣村と行き来して足腰に自信はあるが、急に走らされて、その上斜面を転がり落ちたのである。
大きな怪我がないのはよかったが、落ち葉が少ないところを通り過ぎたときに、腕や足をぶつけて多少痛みがある。打撲しているに違いない。その上口の中は土の味と違和感で一杯であるし、
(はあ、どうしよう……。せめて口の中の違和感が無くなってくれるといいんだけどなぁ……)
はあ、と一人で小さくため息をついたときだった。目の前に水の入った竹筒が差し出されたのである。
茜が戻って来たのだろうかと思い顔を上げると、そこには犬耳に、目尻に描かれた紅色の花びらのような印が特徴の、きれいな白銀の髪をした少年が目の前に立っていた。
「……」
充が不思議そうに彼を見ていると、少年は切れ長の薄茶色の瞳で充を見つめ、「水だ」と言って竹筒をさらに充の近くに寄せる。黒い爪をした手だった。
充は戸惑いはあったものの、水がもらえるのがありがたく、そっと竹筒に手を伸ばす。
「……あいがほ」
土が口に入っていて、上手く言葉が言えない。だが、少年はこくりとうなずくと、充に竹筒を渡してくれた。
竹筒にはたっぷりと水が入っていて、充は口に少しずつ冷たい水を含ませると、ゆすいではき出すを繰り返した。五回ほど行うとだいぶよくなり、こくりと水も飲んでみる。少し土の味がしたが、ざらざらとした感じはないので、口の中に入った土はほとんど無くなったのだろうと思った。
「ありがとう。助かったよ」
「そうか、よかった」
充は彼の顔を見上げて礼を言うと、少年は
「立てるか? 山小屋に案内する」
少年がそう言ったので、充ははっとする。
「教えてくれるの?」
「ああ。」
少年が少し先に進もうとするので、充は「待って」と言いながら立ち上がり、少年の後ろについた。
「大丈夫そうか?」
「あ、うん。多少は痛いけど、歩けるよ」
「そうか。だったらついておいで」
少年はそう言って、歩き出してしまう。
だが、充は彼のことが気になって、その背に「君の名前は何て言うの? 僕は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。