第二章 銀星と赤鬼の子
第16話 沙羅の変化
*
充が
周りが少しずつ風景を変えている中、沙羅は
「沙羅、待て!」
沙羅を追いかけている茜の大声が、充の耳にはっきりと聞こえる。緊迫した茜の声を聞く限り危険な感じがした。
この日、充は持ってきた芋を
「沙羅!」
茜が再び叫んだ。先ほどよりもはっきりとした声である。近い。
充は手にした何本かの枝を抱えたまま辺りを見渡し、急いで山小屋のあるほうへ向かおうとする。
そのときだった。後ろの
「わっ!」
充は驚いて尻もちをつく。慌てて飛び起きたが、沙羅も茜も充のほうを気にするほどの余裕はなさそうだった。こちらに気が向いていない間に、充は急いで近くにあった
沙羅は人間業とは到底思えない、飛び
一方の茜は機会をうかがいながら防衛していた。
「ウッ!」
強い一撃だったらしく、沙羅は数歩後ずさったあとにその場に片足をついた。ようやく沙羅の動きが止まる。
「沙羅、もう逃げるのはよせ。そろそろ辛いころだろう」
茜が息を整えながら
彼女の態度を見る限り、いつも通り茜の話を聞くつもりはないのだと思われたが、長引けば沙羅の体が壊れてしまう。
(茜……、どうするんだろう?)
充がそう思ったときだった。沙羅の様子が急に変わる。
「ウウッ……! グルルル……」
獣のような
「沙羅?」
茜が慎重な声で名を呼んだ。少しの間、沙羅は動かなかったが、茜が一歩彼女に近づいたときに、ぱっと顔を上げる。だが、その
(何だあれは……!)
鼻の上には
さらに彼女の
(これって、まずいんじゃないか……?)
これまでも沙羅の体は
妖化が進んだということは、沙羅が妖の血に負けていることを意味するのではないか――。
実際のところは充にも分からない。妖の血を飲んだ人間の患者など、沙羅が初めてだからだ。症例もない。
だが、あのような変化は薬屋の養子の直感として「良くない変化」であると感じた。そうなると一刻も早く、水薬の鎮静薬を飲ませなければならないだろう。
充はそう思うものの、肝心の茜と沙羅は対峙したままで、中々その先に行動が移せないでいる。充は自分の手に己の白い息を吹きかけ、体を
(ううっ……寒い! これ以上ここにいるのは難しそうだな。二人とも僕のほうには気づいていないみたいだし、そっと山小屋に戻って、水薬の用意をしておこう)
先ほどまでは体を動かしていたので、皐月の物陰から見ていても平気だったが、これ以上長引くと充が
充は体をそっと山小屋のほうに向けると、できるだけ音を立てないように静かに移動し始めた。
そのときである。急に沙羅と茜がいるほうが騒がしくなった。
何だろうと思って振り向くと、目の前には爪を構え、口を大きく開き牙を見せている沙羅がいたのである。
充は目を丸くし、彼女の動きを見ていた。
「あっ……」
自分に危機が
(間に合わない)
充がそう思った瞬間だった。
「充、逃げろ!」
茜の鋭い声が耳に響く。
「うわっ!」
充が何とか体を避けると、その
危なかった、とは思ったが、今はそれどころではない。
「逃げろ!」
「くっ!」
充は茜の声に再び反応すると、すぐに立ち上がり、山小屋のほうに向かって
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