第5話 返答
大袈裟なリボンのかかったプレゼントボックスを前に、まだ寝ぼけているクラウはもごもごと口を動かしながらベッドに座った。自分が作れるものといえばドリームキャッチャーしかなくて、クラウは初めて人に贈るために手芸店に行ったのだ。
奥深い夜空の色を作るためにレジンで作った枠組みに色の透ける薄い灰や藍のベールを何層も巻いて、中心の蜘蛛の巣状の網目はラメ入りの紐を使って、チャームを天の川を模して散りばめた。下げる羽根はクラウの雨の町の部屋と絡めて曇り空のような灰色のものを使って、出来上がったそれはまさに最高傑作だった。クラウはそれを丁寧に包装し、父親を介して夜の町の部屋の主に贈った。
その返事が、この正方形の派手な箱だ。
多分、喜んでくれたんだろう。この中身が手芸店で一緒に買ったラッピング用の包装紙じゃなければ。でもなんでクリスマス仕様? 荷車で配達されて端の歪んだ段ボールとかでも、クラウは全然嬉しいけど。
意を決して、箱の上部の金リボンを解く。しゅるしゅるとそれを抜き取り、せっかくだから結んだ跡を目立たなくさせて綺麗に取っておくことにした。それを素材箱に仕舞って、改めてプレゼントボックスを開く。
「っ、うわあ……!」
そこには虹色に、大小の羽根が並べられていた。上品なものから可愛らしいものまで揃えてあって、大きくて長い、どうやら本物の鳥の尾羽らしいものもある。クラウは箱が数段に分けられていることに気づいて、一つ目のトレーを持ち上げた。二段目は白から黒までのモノクロの羽根が濃淡順に並べられていて、下にはもう一段あるようで、さっそくトレーを持ち上げて覗き込む。
そこには紙の緩衝材が敷き詰められていて、中心に二つ折りの便箋と透明な包装紙に包まれた単行本があった。両方を持ち上げ、便箋を開く。
そこには少し悪筆な字で、ドリームキャッチャーに対するお礼が綴られていた。悪夢をよく見るのでありがたいと書かれていて、一安心する。そのあとは同封されていた本__童話集だった__に関する説明と、プレゼントした羽根が役に立てば、という短かな文が添えられていた。送り主の名前は無く、少し落胆する。同じ町の部屋を持つ人間として仲良くできればと思っていたのだが、向こうにその気はないのだろう。
それを残念に思いながら、クラウはお礼の短かな手紙を書いた。またさらに返事が返ってきたらどうしようと思いつつも、でもこんな豪華な贈り物を受け取って礼を言わないなんて気が落ち着かなかったのだ。部屋を開放している夜の町の部屋の住所は調べれば出てくるし、切手を貼ってポストに出しに行くでもよかったけれど、ついでにまたあの夜空を見たくて、クラウは直接向かって受付の人に渡してくれるよう頼もうと思った。
休日でだらだらしていたから寝巻きのままだったのを着替え、トートバッグに折れないようファイルに挟んだ封筒を入れて夜の町の部屋に向かった。
「いらっしゃいませー!」
明るい女性にまた連絡先を伝えながら、どうやら会員証なるものがあると知る。便利そうだったので作りたいと伝え、カウンターにつく女性からバーコードのついた名刺ほどのカードをもらった。
「あ、すみません、それと……」
クラウは慌ててトートバッグからファイルを取り出した。封筒を取り出し、彼女に差し出す。
「この部屋の持ち主さんから手紙をもらって、返事を渡して欲しいんですけど」
「はぁ……、分かりました、お預かりしますね」
訝しげだったが受け取ってもらえ、クラウはホッとしながらお辞儀をしてエントランスを出た。前回見つけたお気に入りの場所に行き、またぼうっと星空を眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます