─影武者の魔王─



先に城内へと足を踏み入れた坂柳たちは、魔王と対峙していた。


「あとは、お前だけだ!魔王!」

「ふむ。お主が勇者か・・・随分と遅かったな。待ちくたびれたぞ」

「はんっ!そんな減らず口を聞けるのも今の内だ!行くぞみんな!!」


坂柳の言葉に皆が頷き、声を上げた。


「国嶋!僕らが前衛だっ!」

「おうよ!」


坂柳と国嶋は地面を蹴り上げ走り出し、各々がスキルを放った。


坂柳は己の限界を超える力「限界突破リミットブレイク」を。そして、国嶋は強靭な筋肉に包まれる「身体強化ストレングス」で強化をし、力強く振りかざした剣と拳で魔王に立ち向かった。


『うぉおおお!!』


もうもうと粉塵が舞う中、後衛組も負けじとスキルを一斉に放った。


「わたくしが、皆さんをお守りしますので全力で放っていいですよ!天使の息吹エンジェリック


「胡桃さんありがとう!奈津美。一緒にお願い!」

「えぇ、アリシア!行くわよ」


雷神の神罰ケラウノス



勇者パーティ全員の猛攻が魔王が立っていた場所にこれでもかと放たれた。




「く・・・・・・。さ、すが勇者パーティという訳か・・・」

「効いてるぞ!このまま押し切れ」


しかし、そんな簡単に押し切れる程甘くはなく、魔王は指をパチンと弾いた。


その瞬間。その場にいた誰もが地面に突っ伏した。


「がっ!?」

「では、お返しだ。冥王の槍カオスボルグ


魔王がスキルを唱えた瞬間、宙に無数の槍が現れ、地面に突っ伏した坂柳たちへと降り注いだ。


そして、それは坂柳たちの身体の至る所に刺さり、その場に無数の悲鳴を響かせた。


「くく、くははは。こんなものか勇者よ」

「くそ・・・僕たちは、負け、ない!昇華しょうか


坂柳がスキルを唱えた瞬間、身体から赤いモヤが包み込むようにゆらゆらと現れると、坂柳はゆっくりと立ち上がった。


「な、なんだと!?なぜ立てる!!」

「──僕が使ったスキルは全ての能力を一段階あげてくれるんだ・・・言葉通りに、ね!」


その瞬間。坂柳は魔王の目の前から姿を消した。


「ッ・・・!?」


かと思えば一瞬で魔王の背後へと回り込み言った。


「これで、終わりだ。天衣無縫てんいむほう


坂柳の周囲に何千本という剣が現れ、それは魔王へと一直線に向かい串刺しにした。


「か──っは。──見事─」

「はぁ。はぁ。はぁ──」


荒れた呼吸を整え、剣を天に翳し言った。


「────僕たちの勝利だ!!」





坂柳が言葉を発すると同時に魔王は灰へと化した──否、正確には魔王だった者が灰へと化した。が正しいのだろう。


「──まじでチートスキルってすげぇな」

「だからチートと言われてるんです」

「というかあの力があれば今の魔王にも太刀打ち出来るんじゃねぇか?」

「そう、かもしれません・・・・・・」


イリスがそう言うと凪はマジでポンコツかよ。と言わんばかりの視線を送った。


「し、仕方ないじゃないですか!あれが影武者だなんて思わなかったんですから!」


凪は、「はぁぁ」と長い溜息を吐いて言った。


「まぁ、今更どうしようもないし、別にいいけどさぁ。どうする?あいつら残ってもらったら楽に魔王倒せそうなんだけど?」


「すみません・・・。だけど、あの方たちにはこのまま帰還してもらいます。さすがに私たちが干渉してしまうとタイムパラドックスが起きてしまいますので」


「だよなぁ・・・」

「それにあの方たちを帰還させないと、凪のお父様たちも返せないので・・・」

「そうだな・・・」


凪はそれで・・・と言い、話を続けた。


「イリスはあいつらの所行かなくていいの?誰が帰還の扉開くんだ?」

「あ・・・私です」


忘れてましたの言わんばかりのイリスに凪は手をひらひらとし、早く行けと促したのだった。

そして、イリスは目の前に居るにも関わらず、わざわざ転移を使い坂柳たちの前に姿を現した。



「──勇者様方。この度は魔王討伐ありがとうございました」


イリスはそう言いその場で恭しく頭を下げてみせた。


「イリスっ!どこに行ってたんだ?共に戦うと言っていたのに」

「申し訳ありません。こちらも忙しかった為、共に戦う事ができず・・・でも貴方の勇姿は見せて頂きました。とてもカッコよかったですよ」

「おぉ、そうか。ならいい」

「そうよ、和馬。イリス様だって忙しいんだから無茶言わないのよ」

「イリス様!お会いしたかったです。頑張った私を褒めてください」


アリシアの変わらぬ姿を見てイリスは少し顔を歪めるのだった。


「では、帰還の扉を開きますね」


そう言い、イリスが虚空に手を翳すと同時に光に包まれた扉が現れた。


「こちらに飛び込んで貰えれば貴方たちの世界に戻れます」


「じゃあ俺からさっそく!世話になったな女神のねぁちゃん!」

「では、女神様またどこかで」

「イリス様、またなんかあったら言ってちょーだい!そこのバカを無理やり連れてくるから」


イリスは皆に挨拶をしながら別れ、最後は貴方ですと、坂柳に言った。


「イリス。また会えるのか?」

「どうでしょうか。私はこう見えて女神ですからね。なかなか会うことは出来ないでしょうが、その時はまたよろしくお願いしますね」


イリスはそう言うと片目を瞬きウインクをした。


「あぁ。その時は必ず助けにくるさ」


坂柳たちが消えたのを確認したあと、イリスは「入るなら早くして下さい」と、誰も居ない空間に向かって言葉を発した。


それと同時にグリザードたちが現れ、

「ッ・・・!?なんでもお見通しってわけかよ!遠慮なく入らせて貰うぜ」


それだけ言うとグリザードたちも扉に飛び込み姿を消したのだった。

イリスは扉を閉めて「ふぅ」と一息ついてアリシアに視線を向けた。


「アリシア。ご苦労さまでした。このまま帝都に転移させますので、報告はお任せしますね」

「かしこまりました・・・それで・・・」

「なんでしょうか?」

「次はいつ会えま───」


イリスはアリシアの言葉を最後まで聞かずに転移させたのだった。


「は、はは!イリス、さすがに今のは・・・ぶはぁ!!」


先程の光景を離れて見ていた凪はイリスに近づくや盛大に笑い始めた。


「あの子の性格知っているでしょう・・・長引くと面倒なので・・・それに、まだ仕事が残っていますので・・・」


「あー、腹いてぇ。お陰で緊張もほぐれたし、始めますかね」


凪は大きく息を吸い、言った。


「おらぁ!隠れてないで出てきやがれぇ!!ヴォルガノス!」


その声は魔王城内に響き渡るほどの声量で叫んだ。


「ッ・・・!?ちょっと大声だすなら言ってくださいよ!耳が──」

「小僧──何者だ?」


イリスが耳を塞ぎながら、文句を言おうとしたが、それを遮るように、どこからか声が響いてきた。


「やっと出てきたか。コソコソ隠れてんじゃねぇよ!三下が」

「く、くく。くはははは!!初めて会うというのに、三下扱いされるとは思わなかったぞ。貴様・・・名は?」

「山本 凪だ!どうせてめえはここで死ぬから覚えなくて結構だぜ!」

「いい度胸だ。どれ、少し遊んでやろう。かかって来るがいい」

「言われなくてそのつもりだ!」



凪は地面を蹴り上げ魔王へと駆け出した。


そして物語は、魔王ヴォルガノスと凪の最終決戦に突入する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

─世界改変により世界が変わる─スキル「精霊召喚」で無双する まめだいふく @bantaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ