エピローグ
翌日も、空は快晴だった。
シャナ、本日のスコア、午前四時間で無視三、対決一を経た昼休み。
今日は誰も、外に出て行かない。
昨日起こった、
その雰囲気の中にあっても、悠二は全くいつものように、
(僕の中に『
悠二はこの雰囲気を、あえて無視している。正直、昨夜のことで頭がいっぱいだった。
(僕が、自分の人格を無くすほど弱っていない内に転移してきたのも、偶然だ)
その悠二の代わりに、メガネマン
(そういう僕の所にシャナが来たのも、それでフリアグネの
シャナは、これも例によってというべきか、
(でも、そんなことに感謝したり運がよかったとか言っても意味がない……僕が今こうやって、自分のことを考えられるだけの力を持っている、その中でできることをする、それだけを分かっていれば十分なんだ……そう、僕がなんであるのかさえ、どうでもいいことなんだ)
シャナが、
(結局、なんでもないことなんだよな……あの戦いで気付いたことは)
(……今あることが
さらに
が、
「……あ、あの……ゆかり、ちゃん」
唯一無視できない声が、悠二を物思いから引き戻す。
無論シャナは、そんな視線をそよ風ほどにも感じない。
「なに」
「……わ、わ、私……」
「?」
もつれながらの声は、最後だけはしっかりと、響いた。
「負けないから」
教室内がどよめく。
あの吉田一美が、あの
教室中が、この吉田の宣戦布告と、それが巻き起こすかもしれない
ところが、宣戦布告を受けた当のシャナは、その言葉の意味がさっぱり理解できない。首を
「何の話?」
よりにもよって僕に振るな……と
あわあわと、どう説明すべきか迷っている間に、
不穏な局面がとりあえず流れて、悠二はほっとする。そんな情けない自分を、
(……しようがないだろ、こんなこと、僕は色々と初めてで……)
と心中で自己弁護する、その前に、細い指に押された小さな包みが一つ、机の上を
「……ええ、と……」
悠二が顔を上げると、吉田は逆に顔を伏せている。今にも机に突っ伏しそうに緊張した声で言う。
「……いつも、その、おにぎりばっかり……だから」
「ど、どうも、ありがとう」
吉田のようにしどろもどろに、悠二は礼を言う。
吉田とお
この非常に
「どういうこと、悠二?」
「あ」
その強く響きすぎる声で発された言葉は、教室内に、今度は不穏などよめきを起こした。
悠二の全身に、だらだらと冷や汗だか脂汗だかが流れる。
シャナは単純に、吉田の行為の説明を求めただけだ。そして悠二にとっては、この呼ばれ方こそ、晴れて彼女に一人格として認められた
「……
「いや、これはそういう意味じゃ……」
と否定しようとして、ふと考える。
昨日のこと、あのときのこと、自分は、シャナのことを、どう思っていたか。
そういう感情なのか、違うのか、よく分からない。
もっと深いような、もっと強いような、でも、そもそも自分は、そういう感情を知らない。
あれが、そうなのだろうか。
……などと色々思う内に、
「な〜るほど、うんうん、やっぱり。
と隣席の
「……我々に黙って、そういうアレをナニするとは……いい度胸だ」
田中は
周囲でも、
「まあ、聞きまして、奥様?」(男)
「なんてことざーましょ!」(これも男)
などと、今までの重苦しい沈黙の反動のような騒ぎが、あえて彼らの方に顔を向けずに
その騒ぎの中、それでも
「……負けませんから」
彼女は顔を伏せずに、正面から悠二を見ていた……むっときてはいるようだったが。
「は、はあ、はい」
悠二は、おどおどと答える。
シャナが、その様子にピンとくる。悠二が、またあの表情を、吉田に向けている。笑う直前のような、困りきったような、変な顔。その手は、
「……」
なんだか、非常に
「……」
シャナは、おもむろに食料袋からチョコスティックの箱を取り出すと、悠二の前に放った。
「…………?」
この
こればかりはいつものように、簡潔に状態を表す声がかかる。
「あげる」
「へ?」
悠二が見れば、シャナはもう知らん顔をしてメロンパンの残りをかっ喰らっている。どこか
「い、いただきまーす」
そうすると、今度はシャナが横目で
(い、いったい僕にどうしろってんだ……)
やがて、
このざわめきの中、悠二は、自分の置かれた立場に、改めて嘆息する。
昨日までのものとは違う、今への思いを込めた、ため息だった。
(……つまり、『本当のこと』だろうがなんだろうが、気付いた所で、
でも、楽が楽しい、とは限らないわけで。
(言い訳かなあ、これは)
悠二は、ほんの少しだけ、笑みを作る。
話し声に
世界は変わらず、ただそうであるように、動いている。
灼眼のシャナ @YASHICHIROTAKAHASHI
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