第21話「レオの策略の始まり」

エドワード公爵邸に届いた王宮からの招待状。封を切ると、中には丁寧な筆跡で「アリア・エドワード殿、王宮へのご滞在を心よりお待ちしております」と記されていた。


しかし、その内容を確認した亮は眉をひそめる。今回は亮に対する招待状はなく、アリア一人に宛てられていたのだ。


「どういうことだ…」


亮が呟くと、隣にいたアリアも招待状に目を落としながらため息をついた。


「一人だけ招待なんて、随分と都合のいい話ね。亮君がいないのを狙っているのは明らかだわ」


「無視してもいいんじゃないか?こんな招待状…」


亮がそう提案するが、アリアは首を振る。


「無視するのは無理よ。王宮からの正式な招待を断るなんて、公爵家の立場を危うくすることになるわ。それに、私が断ったところで、あの王子のことだからしつこく誘ってくるに決まっている」


「でも、明らかにレオの狙いは君を俺から引き離すことだ」


亮の言葉には強い警戒心がにじんでいた。以前の食事会でレオが見せた態度、そしてその後もアリアに執着する様子は、亮の中で不安を大きくしていた。


「亮君」


アリアが真剣な表情で亮を見つめる。その瞳には、彼女なりの決意が宿っていた。


「大丈夫よ。私は彼に振り回されたりしない。自分の意思で行動するわ」


「でも…」


亮が何かを言おうとすると、アリアは彼の言葉を遮るように微笑んだ。


「あなたがそうやって心配してくれるのは嬉しいけど、私は悪役令嬢なのよ?こういう場面で毅然としているのも、私の役割だわ」


その言葉に、亮はしばらく黙り込んだ。そして、深く息をついてから言った。


「…わかった。でも、何かあったらすぐに知らせてくれ。無理はするなよ」


「ええ、わかってるわ」


アリアは小さく頷き、招待状を握りしめた。


王宮への到着


翌日、アリアは王宮の大広間へと足を踏み入れた。豪華な装飾と輝くシャンデリアが目を引く中、彼女を出迎えたのは紳士的な笑みを浮かべたレオだった。


「ようこそ、アリア。君が来てくれるのを楽しみにしていたよ」


レオはその場で深々と頭を下げ、彼女を歓迎する。だが、アリアは表情を崩さず、冷たい声で応じた。


「招待状を読んで少し迷ったけど、せっかくのご厚意を無下にするのも失礼かと思って来たの。それだけよ」


「そう言わず、もっとくつろいでくれていいんだ。君にはここで最高の時間を過ごしてほしいと思っている」


レオの笑顔は完璧だったが、その裏に隠れた執着心をアリアは感じ取っていた。彼の目は、ただの礼儀や親しみを超えた強い感情を湛えていた。


「では、少しお邪魔させてもらうわ」


アリアはそう言って軽く礼をしたが、その心の中では警戒心が強まっていた。


孤立の始まり


滞在初日、アリアは広い王宮を案内された。彼女に同行する侍女たちはレオが用意した者たちであり、全員が彼に忠実な様子だった。彼女が亮の話題を口にすると、話題をそらされるか、そっけない返答をされることに気づいた。


「これが彼のやり方ってわけね…」


アリアは苦笑しながら小さく呟いた。王宮内では、彼女の「悪役令嬢」としての評判が根強く残っており、接する者たちはどこか距離を置いていた。


その孤立感を利用しようとするかのように、レオは何度も彼女に近づいてくる。


「君がこんなにも一人で戦っているなんて、誰も理解していないんだろう」


「そんなこと、あなたに言われる筋合いはないわ」


アリアは冷たく返すが、レオの言葉はあまりに的確だった。彼女の胸に隠された孤独に、まるで手を伸ばそうとするかのような発言が続く。


「君には俺が必要だ。君を正しく評価し、守ることができるのは、俺だけだと思っている」


「…その言葉を信じるほど、私は愚かじゃないわ」


アリアは冷たく言い放つが、彼女自身の中にも迷いが芽生え始めていた。王宮の華やかさの中で、亮の隣にいる時の安らぎがどれほど貴重だったかを思い知らされていたのだ。


不安を抱く亮


一方、公爵邸で亮は焦燥感を隠せなかった。アリアが王宮に滞在している間、何が起きているのか、彼には何の情報も伝わってこない。


(アリア…本当に大丈夫か?)


彼は彼女の意思を信じると決めたものの、王宮でのレオの影響力を思うと、不安が募るばかりだった。


「俺は…何をすればいいんだ…」


亮は自問しながら、握りしめた拳を静かに緩めた。


レオの策略は確実に動き始めている。そして、それに立ち向かうアリアの心には、亮との絆と、孤独に対する迷いが交錯していた。亮とアリアの未来は、レオの執着と策略によって、さらに大きく揺れ動いていく──。

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異世界転生したら俺の嫁が悪役令嬢だった件 arina @arina-t

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