第20話「揺れる想いと新たな影」

舞踏会から数日が過ぎたが、亮の心にはまだ王子レオの存在が引っかかっていた。アリアを守りたいという自分の意志が揺るがない一方で、彼女に対して明らかに好意を向けるレオの姿が気になって仕方がなかった。


「俺の役割は、アリアを守ることだ…」


亮は自分に言い聞かせるように呟きながら、公爵邸の中庭を歩いていた。その日は晴れて穏やかな風が吹いていたが、亮の胸の内は晴れないままだ。


アリアとの会話


中庭の奥に進むと、そこでベンチに腰掛けて本を読んでいるアリアの姿が見えた。彼女の金髪が陽光に輝き、亮は思わず足を止める。


「亮君、そんなところで立ち止まっていないで、何か用なら近づいてきたらどう?」


本から目を離さずに放たれたその言葉に、亮は少し笑いながらアリアの隣に座った。


「よくわかったな、俺がいるの」


「当たり前でしょ。あなたみたいな無遠慮な足音、聞き逃すはずがないわ」


冷たいようでどこか優しさを含んだ言葉に、亮は肩をすくめる。


「そうか。じゃあ、もう少し静かに歩く練習でもしようかな」


「ええ、そうしてくれると助かるわ」


二人はしばらく無言の時間を過ごした。鳥のさえずりと風の音だけが心地よく耳に響く。その穏やかな時間の中で、亮はふと口を開いた。


「アリア、レオ王子のことだけど…」


その言葉に、アリアは本を閉じ、亮に視線を向けた。


「何?レオ王子がどうかしたの?」


「あいつ…君のこと、かなり気に入ってるみたいだったけど、どう思ってる?」


亮の問いに、アリアは少し目を細めた。


「どうもこうもないわ。ただ、あの人は昔から少し押しが強いだけよ。別に、特別な感情なんてないわ」


その言葉に、亮は少しだけほっとした。しかし、アリアの表情にはどこか曇りが見える。


「でも…彼の気持ちは本気かもしれないわね」


「それなら、どうする?」


亮の言葉に、アリアは少し間を置いて答えた。


「どうもしないわ。私には考えなければならないことが他にあるもの」


その冷静な返答に、亮は彼女の強さを改めて感じると同時に、彼女が抱える孤独にも思いを馳せた。


新たな来訪者


その日の午後、公爵邸に使者が訪れた。使者は王宮からのもので、レオ王子が亮とアリアに招待状を送ってきたという。


「何のつもりかしら?」


招待状を手にしたアリアは、眉をひそめながら亮に問いかけた。


「招待状には、軽い食事会としか書いてないけど…さすがにただの食事とは思えないな」


亮もその意図を測りかねていた。だが、招待状を受け取った以上、無視するわけにもいかない。


「面倒だけど、行くしかないわね」


アリアがそう言って肩をすくめる。その態度は冷静を装っていたが、彼女の目にはわずかに警戒心が見えた。


王子の館へ


翌日、亮とアリアはレオ王子の館を訪れた。王宮の外れにあるその館は、豪華さと気品が漂い、王族の地位を示すようだった。


館の中に通されると、レオが笑顔で二人を迎えた。


「よく来てくれたね、アリア。それに亮君も」


その明るい声には敵意は感じられなかったが、亮は彼の視線がアリアに向けられるたびに、どこか釈然としない感情を覚えた。


「それで、この食事会は一体何のためなの?」


アリアがストレートに問いかけると、レオは一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべた。


「ただの食事会だよ。君が来てくれたら嬉しいと思っただけさ」


その返答にアリアは溜息をつきながらも椅子に腰を下ろした。


「そんな理由でわざわざ招待状を送ってきたのなら、本当にお暇なことね」


食事会の裏に潜む意図


食事が進む中、レオは終始アリアに話しかけ続けた。幼い頃の思い出話や、王宮での生活のこと。アリアは冷静に対応していたが、時折その目が冷ややかになるのを亮は見逃さなかった。


そして、食事が終わる頃、レオが突然口を開いた。


「アリア、君がこのまま彼と共にいることが本当に正しいと思っているのか?」


その言葉に、アリアの動きが止まる。亮も驚き、レオの顔を見つめた。


「どういう意味ですか?」


アリアが問い返すと、レオは真剣な目で彼女を見つめ返した。


「君は強い女性だ。でも、その強さを正当に評価してくれる相手が、本当に今そばにいる亮君なのかどうか…俺には疑問だよ」


その言葉に、亮は拳を握りしめた。レオが挑発しているのは明らかだった。しかし、アリアはその言葉に微笑みを浮かべて応じた。


「あなたに言われる筋合いはありません。亮君がどうであれ、私が選ぶべき道は自分で決めます」


その冷静な返答に、レオはしばらく沈黙した後、小さく笑った。


「そうか。君らしい答えだ。でも、君が何を選ぶにしても、俺は君の力になりたいと今でも思っている」


その言葉に、アリアは何も答えず、ただ亮に視線を向けた。その目には、彼への確かな信頼が宿っていた。


王子の館を後にしながら、亮は改めて自分の覚悟を固めた。


(俺はアリアを守る。この世界で、彼女の未来を変えるために…)


揺れる感情を胸に抱えながら、亮はアリアと共に帰路についた。

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