第19話「王子の執着と揺れる心」
舞踏会が続く中、亮はアリアの隣で杯を傾けながら、先ほどの王子とのやり取りを思い返していた。彼女が「たいした話じゃない」と言ったものの、レオの視線や言葉から感じたものは、ただの懐かしさや友人としての感情には思えなかった。
「亮君、またぼーっとしてるわね」
アリアが小さく溜息をつく。その声で我に返った亮は、慌てて首を振った。
「いや、ちょっと考えごとしてただけだよ。それより、もう少しここにいても大丈夫か?」
「…別に。せっかくの舞踏会だし、少しは楽しんであげるわ」
アリアのその言葉に、亮はどこか安心する。彼女が「楽しむ」と言っているのが本心なのかはわからないが、少なくとも嫌がっている様子はなかった。
だが、その時。再びレオが二人に歩み寄ってきた。
王子の再訪
「アリア、また話せるかい?」
レオの登場に、亮は思わず眉をひそめた。だがアリアは冷静な表情を崩さずに応じる。
「レオ王子、もう十分お話ししたのでは?」
「いや、まだ伝えたいことがあるんだ。亮君も一緒に来てくれていいよ」
レオの視線が一瞬、亮を鋭く捉えた。その眼差しは笑顔の奥にわずかな敵意を隠しているようにも見える。
「…それならお話を伺いましょうか」
アリアが立ち上がり、亮もそれに続く。三人で静かな一角へと移動すると、レオは少し距離を取った場所で話し始めた。
レオの提案
「アリア、君にこんな話をするのは少し唐突かもしれないが…」
レオは一度言葉を切り、真剣な眼差しでアリアを見つめる。
「君は、今の環境が本当に自分にとって幸せだと思っているかい?」
その言葉に、アリアの表情が僅かに硬くなる。亮も何を言い出すのかと身構えた。
「何が言いたいのですか、レオ王子?」
「いや、誤解しないでくれ。ただ、君の噂を聞く限り、いろいろと孤立しているように見えたんだ。だから、君のためにできることがあれば手伝いたいと思っている」
その真摯な言葉に、アリアは一瞬戸惑ったように見えた。しかし、すぐに冷たい笑みを浮かべる。
「ご心配いただきありがとうございます。でも、私は孤立しているわけではありません。こうして亮君もそばにいてくれますし、困っていることはありません」
アリアが亮に視線を向けると、レオの顔が一瞬だけ強張った。
「…そうか。亮君が君の支えになっているということだな」
レオはゆっくりと亮に視線を移した。その目は、先ほどまでの柔らかさを失い、鋭さを帯びている。
王子との静かな火花
「亮君、君は…アリアを守れる自信があるのかい?」
唐突な問いに、亮は一瞬だけ息を飲んだが、すぐに静かに答えた。
「もちろんです。彼女のそばにいるのが俺の役目ですから」
その返答に、レオの唇がわずかに吊り上がる。
「頼もしい答えだな。でも、彼女は君が思っている以上に繊細で、そして複雑な人だと思う。もし君が本当に彼女を守りたいなら、もっと深く彼女を知るべきだろう」
レオの言葉は柔らかかったが、その裏には確かな挑発が感じられた。亮はその意図を理解しながらも、冷静に言葉を返す。
「その通りですね。だからこそ、俺はこれからも彼女を知り、支え続けます」
その返答に、レオは少しだけ肩をすくめて微笑んだ。
「なら、期待させてもらうよ。アリアの未来を左右する重要な役目だ。軽い気持ちで引き受けるには、少し荷が重いかもしれないがね」
アリアの決意
二人のやり取りを聞きながら、アリアはゆっくりと口を開いた。
「亮君もレオ王子も、私のことを心配してくれるのはありがたいですが、私は自分の力で道を切り開きます。誰かに守られるだけの存在でいるつもりはありません」
その言葉には、いつもの冷静さを超えた強い意志が込められていた。亮もレオも、アリアのその言葉に一瞬だけ動きを止めた。
「アリア…」
亮が小さく呟くと、彼女は彼に視線を向けた。その瞳には、彼への信頼がわずかに垣間見える。
「でも、あなたが私のそばにいることは悪くないわ。むしろ、安心できると言ってもいいかもしれないわね」
アリアのその言葉に、亮の胸が熱くなる。彼女が初めて自分の存在を肯定してくれたような気がした。
レオの立ち去り
そのやり取りを見たレオは、少しだけ苦笑して立ち上がった。
「そうか。アリアがそう言うなら、今はそれを尊重するよ。でも、いつでも君の力になる準備はしているからね」
レオはそう言い残し、亮とアリアを残して去っていった。その背中は堂々としていたが、どこか寂しげにも見えた。
アリアとの帰路
舞踏会が終わり、亮とアリアは帰路についた。馬車の中、アリアは静かに窓の外を見つめている。
「今日は疲れた?」
亮がそう尋ねると、彼女は少しだけ微笑んで答えた。
「ええ、少しね。でも悪い時間ではなかったわ」
その言葉に、亮も微笑みを返した。彼女がそう言うのなら、それで十分だと思えた。
馬車の中で静かに揺られながら、亮は改めてアリアの破滅フラグを覆すために自分がすべきことを考え続けていた。彼女のそばにいること、それこそが今の自分の役割なのだと感じながら──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます