第18話「王子との出会い、揺れる想い」

舞踏会の夜は華やかさを増し、貴族たちの笑い声や談笑が大広間を満たしていた。ダンスを終えた亮とアリアは、テーブルの片隅で一息ついていた。亮はぎこちないダンスのせいでまだ少し息が上がっているが、アリアは涼しげな表情を崩さず、冷静にワイングラスを口に運んでいる。


「悪くなかったわね。亮君にしては」


「それ、褒めてるのか?」


「さあ、どうかしら」


アリアはくすりと笑いながらグラスを置いた。その笑顔が珍しく穏やかで、亮は少しだけ安心する。舞踏会という慣れない場でも、彼女が少しだけ楽しめているように見えた。


だが、その瞬間。広間の入り口が大きく開き、一人の青年が堂々とした足取りで入場してきた。その場の空気が変わり、全員の視線が彼に注がれる。


「レオ・フォン・ヴァインブルク王子だ…!」


周囲の声が小さく響く。レオは王国の第二王子であり、容姿端麗でありながら直情的で大胆な性格で知られる存在だ。誰もが彼の存在感に圧倒されていた。


レオ王子との出会い


レオは周囲に挨拶をしながら進み、やがて亮とアリアの近くで足を止めた。彼の目がアリアに向けられる。


「久しぶりだな、アリア」


アリアは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの冷静な態度に戻る。


「レオ王子、ご無沙汰しております。こうしてお会いするのは久しぶりですね」


「その通りだ。君の美しさは噂に違わず、さらに輝きを増しているようだ」


レオの口調は優雅だが、どこか親しげでもある。その言葉に周囲の貴族たちが小さくざわめく。王子がアリアに注目していることは、すぐに広間全体の噂となりそうだった。


亮はそのやり取りを見守りながら、胸の奥にわずかな違和感を覚えた。レオの視線は、明らかにアリアに対する特別な興味を含んでいるように見える。


揺れるアリア


「アリア、君と少し話をしてもいいだろうか?」


レオがそう言って手を差し出すと、アリアは一瞬戸惑いを見せた。普段の冷静な彼女には珍しい反応だ。


「ええ、構いません」


アリアが手を取ると、レオは満足そうに微笑み、そのまま二人はダンスフロアの端へと歩いていった。


亮はその様子を見送りながら、心の中で何かがもやもやと湧き上がるのを感じた。


王子の想い


レオはアリアと並びながら静かに口を開く。


「君がここにいると聞いて、どうしても来たかった。昔のように君と話したかったからだ」


「昔のように、ですか…?」


アリアが少しだけ表情を緩めた。幼い頃、王宮の行事でレオと何度か会っていた記憶が蘇る。彼はその頃から明るく積極的な性格で、何かと彼女に話しかけてきたものだ。


「そうだ。君は変わらないと思っていたけど、今日見てわかった。君は昔よりずっと綺麗になっている」


その言葉に、アリアはわずかに赤面したが、すぐに冷静さを取り戻した。


「お褒めに預かり光栄です、レオ王子」


だが、レオの真剣な表情が続く。


「アリア、本気で言っているんだ。君のことをもっと知りたい。今の君に何が必要なのか、何を考えているのか…」


彼の真摯な言葉に、アリアは困惑を隠せなかった。


亮の決意


一方、ダンスフロアの端でそれを見ていた亮は、アリアとレオの会話が気になりつつも、介入するタイミングを見つけられずにいた。


(アリアはどう思っているんだろう…?)


亮は思わず手を握りしめる。彼女の破滅フラグを防ぐためにここにいる自分が、何もできないでいることに焦りを覚えていた。


アリアが王子に引き寄せられるような形で破滅エンドが進んでしまうのではないか。その懸念が亮の胸を支配していく。


だが、今ここで無理に割り込むべきではない。亮は自分にそう言い聞かせながら、アリアの意志を信じて見守ることを決めた。


アリアの返答


ダンスフロアの中心で、レオはさらに踏み込んだ言葉を投げかける。


「アリア、君が他の誰かに縛られているなら、それを壊してでも君を自由にしたいと思っている」


その言葉に、アリアの目が一瞬だけ見開かれる。そして、静かに息を整えて言葉を返した。


「レオ王子、私が縛られているというのは少し誤解があります。私はただ、私なりの生き方を探しているだけです」


彼女の冷静な返答に、レオはしばらく沈黙したが、やがて柔らかく笑みを浮かべた。


「そうか…君がそう言うなら、今はそれ以上踏み込まないことにするよ。でも、君がどんな道を選ぶにしても、私は君を見守っていたいと思う」


「…ありがとうございます」


アリアは短く答え、レオの手を離した。その瞬間、彼女の視線がダンスフロアの端にいる亮を捉えた。


アリアが亮の元に戻ってくると、彼女はわずかに疲れたような表情を見せた。


「お疲れさま。王子との話はどうだった?」


亮の問いに、アリアはつんとした表情を浮かべて答える。


「別に、たいした話じゃないわ。ただ、少し面倒くさいだけ」


その言葉を聞いて、亮は思わず笑みを漏らした。


「それなら良かった。君が困ってないなら、俺も安心だよ」


「…心配するだけ無駄よ」


アリアの言葉は冷たかったが、その声にはどこか安心感が滲んでいた。亮はそんな彼女を見ながら、改めて彼女を守る決意を胸に抱いた。

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