追悼:楳図かずお先生へ。
立花 優
第1話 追悼:楳図かずお先生へ。
あれは、既に、私にとっては、遙か遙か昔の思い出だ……。
だが、まるで、昨日の事のようにも鮮明に思い出すのだ。
毎週、水曜日の午後12時過ぎになると、中学1年生になったばかりの、この私の教室に、女子生徒の絶叫が響く。
「きゃー!!!」
「こ、こ、こわい!!!」
一体、私ら、男子生徒らは、一体、何事があったのか?との、奇異な思いにとらわれる。
何の事は無い。毎週、水曜日に発売される週間少女漫画雑誌を読んで、女子生徒らが、次々に、絶叫を繰り返していたのだ。
その理由とは、既に、「ホラー漫画の天才」の異名を持つ「楳図かずお」先生の恐怖漫画『ママが怖い』を読んで、同級生の女子生徒達が、次々に叫び声を上げていたのだ。
この『ママが怖い』の粗筋は、凄く単純で、病気で入院した母親が退院した後、人間が変わり、夜になると、蛇のように身体をくねらせ、冷蔵庫の扉を開けて、生卵を飲み込むのだが、舌の先は二つに分かれ、全身には鱗が光っている。
いわゆる「蛇女」だ。
かの有名な「蛇女」シリーズの一つなのだ。
しかも、この「楳図かずお」先生が描かれる主人公の女の子は、どれもこれも、少女漫画に出て来る、瞳キラキラの可愛い少女達ばかりなのである。
その、ギャップが、また、目茶苦茶に面白いのだ。
やっと、女の子らが見終わると、ようやく、男子生徒に、その週間少女漫画雑誌が廻ってくるのだが……。
さて、私には、この「楳図かずお」先生には、特別な思い入れがある。
多分、小学校5年生の頃だったか、記憶がハッキリしないが、週間漫画雑誌「少年サンデー」だったかに、『おろち』と言う漫画が連載されていた。
この『おろち』と言う漫画は、所謂(いわゆる)、大蛇の「おろち」では無くて、多分、永遠に歳を撮らない、絶世の美少女が、色々な事件に顔を突っ込み、難問を解決して行くと言う、粗筋であった。
この『おろち』の、確か、第3章だったかに、「秀才」というシリーズがあった。
この粗筋が、また、凄いのだ。
ある年の夜、一軒家に強盗が押し入り、何かの間違いで、一歳になったばかりの子供が殺される。
やがて、10年後ぐらい後の話である。
この「秀才」の主人公の名前こそ、この私が使っているペンネームの「立花 優」なのだが、この母親は、狂ったように、この「立花 優」君の我が子に、勉強を強いるのだ。
「あなたは、大学教授を父に持つ「秀才」だから、勉強は、常にトップを取るのよ!」と、まあ、こう言う具合である。
健気にも、この主人公の「立花 優」君は、母の期待に添うべく、猛勉強を続けるのだが……。
ある日、ソレを見かねたこの『おろち』によって、この母親の異常な行動の謎が暴かれ、二人は最終的に、仲直りをすると言うものである。
何と、この母親に猛烈に勉強を強いられた「立花 優」少年こそ、今から10年程前に、この家に強盗に入り誤って一歳児を殺害してしまった強盗殺人犯の、実の子供だったとの結末であったのだ。
さて、時代は一挙に飛んで、時は、この私の高校三年生の卒業式の事である。
私は、卒業式会場の講堂で貰った、卒業証書と卒業アルバムは大事に脇に抱えて、一学年下の多分相当に可愛い女子高生代表から貰った花束を、帰り際に、この県内最低の普通科の高校の正面玄関に叩き付けて、歩いて約5分で着く自宅に辿り着いたのだ。
そして、貰ったばかりの、卒業アルバムに、
【この暗黒の高校時代を、将来、「立花 優」と言うペンネームで、書いて発表せよ!】と、マジック・インキで、ハッキリと書いたのだが……。
しっかし、その記述は中々実現せずに、ようやく、「小説家になろう」や「カクヨム」に発表できたのは、何と、その時から、50年以上も後の話である。
題名は『八月の光る砂』だった。
「小説家になろう」では、某賞の一次選考通過作品でもあった。
それにしてもである。私の、ペンネームの名付け親でもある、「ホラー漫画の天才」の異名を持つ「楳図かずお」先生が、とうとう、亡くなられてしまった。
ここに、私の、この思い出話を添えて、先生への追悼文としたいのだ。
果たして、どれだけの人の共感を呼ぶのかは、不明だけれどもねえ……。
追悼:楳図かずお先生へ。 立花 優 @ivchan1202
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