第4話 ワンさん

夜がいい。

昼ってさ、動いてる人達のものじゃん。

私みたいな止まってるもんにはウザ。


学校に行かなくなって、初めはさ

お母さんもお父さんも、休めばいいなんて

言ってたけど、一ヶ月も過ぎた頃になると

「ほら、今日もクラスの人が連絡とかプリントを持ってきてくれたわよ。

挨拶くらいはしたらどうかなぁ?」

なんて言ってくる。


会いたく無い。

できたら、家にも来ないで欲しいのに。

そんなの担任が仕向けただけじゃん。

お母さん、全然わかってないし。


それを口にしたら、言い返してくるよね。

「みんなが心配してくれてるのに、そんな

態度じゃなくても。

マリも少しずつ努力しなきゃ。」なんてね。

だから、黙る。黙秘権を使う。


担任が時々電話してくる。

保健室登校のオススメ。

やだね。

何かの拍子に誰かと出会うじゃん。どんな顔したらいいのよ。

無視したら何て言われるかわかんない。

だからって、薄笑い浮かべて、挨拶しろって?

どっちもキモ。


朝は寝たふり。お腹が空いたら、お母さんがパートに行ったのを見計らって、冷蔵庫の中や買い置きのお菓子やパン、カップ麺を両手にだかえて2階の部屋に戻る。


食べたら好きな本をパソコンで読む。

わざわざ、図書館や本屋に行かなくても

いくらでも読めるもんね。

ドールハウス作りも楽しみ。これは、わざわざ

買わない。空き箱やダンボールなんかある物で

小わざを効かせて作るのが醍醐味だと思ってる。


勉強もしてる。

別に嫌いじゃないもん。

ただ、あの教室の整然とした空気が息苦しい。

暗黙の了解って理解できないのは、私がおかしいからなんだろうな。


訳わかんなくなったのは、小学生4年くらいだったな。女子特有の会話とかつまんなくて。

男子とアニメの話とかの方が楽しくて。

そしたら、男好きとか言われてた。

男子とか女子とかで別れてなきゃいけないの?

わかんなくなった。

でも、ダメなんだろって。

それから、女子のグループにいることにしたけど、アイドルとか可愛い小物とか、話についていけなくて。

トイレまで一緒に行くんだもん。

中学になったら、好きな男子の話。

バレンタインのチョコレートなんて地獄だった。


中学になるとやたら規則が厳しくなって

制服の着方や髪の毛の長さやら持ち物やら

移動教室なんてモタモタしてたら、叱られる。

みんなちゃんとやってる。

それに合わせるのに疲れた。


何で、学校に行かなきゃいけないの?

誰が理由をわかるように教えて!


「ほたほたや〜🎵。

ほ〜た〜ほ〜た〜やぁ〜🎶。」


酔っ払いのおじさんが歌ってるわ。

おじさんだって酔わなきゃやってらんないのよね、きっと。


「ほ〜た〜ほ〜た〜や〜ぁぁん。🎵」


へーんなの。ぁぁんってぷぷぷ。

よーし、どんなおじさんが見てやろっと。

道路が見える窓から下を覗いた。

三輪自転車に乗った人がいる。手なんか振ってる。気になる。変態かも。

迷ったけど、もう、どうでもいいって気になったから会いに行った。


「こんばんは。ほたほたやですんにゃ。」


「んにゃって、、、。変な大人ですね?夜中に

こんな処をうろついて強盗ですか?」


「いや、違います。私は猫又なんですよ。」


「うわっ?ホントなんですか?

感激だなぁ。尻尾見せてもらっていいですか?」


「はい、どうぞ。」


「2本あるーー。この感激をどうしたらいいのだろうか!」


「うふにゃ、こんなに喜んでいただけるとは。

猫又冥利につきますね。

ところでお嬢さん、自分をさがしてますね。

なら、ワンさんがいいでしょう。今晩は一緒にいられますよ。

猫さんの姿はあなたにしか見えません。

お代はチュール3本ください。

お庭に置いておいてくだされば取りに伺います。

朝になり、ワンさんがドアをカリカリしたら帰してやって下さいね。うにゃ。」


自転車の後ろの三角屋根の家から二匹の猫を抱っこして、私に渡したと思ったら、光の速度で走り去って行った。


意味わかんないけど、部屋に連れてきちゃった。

YouTubeでも見よっと。

パソコンに猫がどんすわりした。


「あのう、どいてくれません?」


「ワン!!」


えええ?猫なのに「ワン!」?そんな事あっていいの?

おまけに、犬のお散歩リードルつけてるじゃないの?

まさか、、、。お散歩に連れてけってこと?

「ワン、ワンワン!」


ワンさんも後ろ足で立ってアピールが強い。

仕方ないな。夜ならいいや。


ワンさんはすごいスピードで一目散に走って行く、はーはーっ、、、。運動不足だ。

どこまで行くのーーーっ!


ワンさんが止まった。

どこ?あ、学校、、、。

夜なのに明かりがついてる。どこの学校なの?

ワンさんはとっとこ中に入ってく。

恐々、私もついてく。


窓から教室を覗くと、授業をしてた。

おじさん?おばあちゃん?作業着の男の人?

私くらいの子、、、。


隣の教室は、外国の人達だ。

黒板にひらがなが書いてある。

なんだろ?ここ?


チャイムが鳴ったら、みんながわたし達に気がついた。

窓を開けて声を掛けてくる。

「どうしたの?可愛いね、猫さん。

ねぇ、おいでよ、寒いしさ。」


「いいんですか?私、この学校の生徒じゃありませんが。」


「いーいのよ。ここはね、自由なのよ。

さっさ、おいで、おいで。」


お言葉に甘えて教室に入る。この感じ、久しぶり。だけど、何か違う、、。なんだろ?

年齢もバラバラ、国もバラバラ。

服装もバラバラ。話す言葉もバラバラ。

結局、みんなと授業も受けて、給食まで食べちゃった。


帰り道に気がついた。猫又さんは、私にしかワンさんは見えないって言ったけど、あの学校の人達には見えたのよね。

なんでなんだろ?

あそこ、良かったな。本当の私でいられそうだもん。



いつのまにか寝てた。夜に寝るなんて久しぶり。ワンさんがドアをカリカリしてる。

帰るんだね。


「ワンさん、ありがとう。私、ちょいと踏ん張ってみるよ。」


「毎度ありがとワン!」


やだ!ワンだって。いいんだよね、猫だからにゃーじゃ無くてもさ。


「おかーさーん!

あのね、話たいことがあるの。

私、居場所を見つけたみたいなの。

聞いてくれる?」



















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ほたほたや 菜の花のおしたし @kumi4920

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