61 ティナは《グレイランサー》に見切りをつける(ティナ視点)

「くそっ、魔族なんてものが出てくるなんて――」


 ベルナルドが悔しげにうなる。


 他の二人も歯ぎしりしている。


 それを《グレイランサー》の紅一点、治癒魔術師の少女ティナは冷ややかに見ていた。


 相手は高位魔族だったのだから、敗北自体は恥ではない。


 むしろ、立ち向かう勇気を持っていたのだからすごいと彼女は思う。


 ただ、それはAランクパーティとしてのプライドを持つ彼らには、あまり意味がないことらしい。


 彼らにとっては、自分たちがまるで歯が立たなかった高位魔族リンゼアを、Eランクパーティで学園最底辺の弱者であるアーロンが倒してしまったことが、とにかく屈辱なのだ。


 しかもティナは彼らの目の前で、アーロンにファーストキスを捧げた。


 感謝の気持ちと悪戯心が半分半分くらいの理由だったが、心の片隅には彼らに見せつける気持ちがあったかもしれない。


 あなたたちでは私には不釣り合いですよ、と。


 私が狙っているのは、あなたたちではなく――。


(アーロンくん、かぁ)


 ティナはあらためて高位魔族を討った少年のことを思い出す。


 生まれて初めて捧げた唇が、ほんのりと熱を宿した。


(また会いたいな)


 いや、そうではない。


 自分から会いに行くのだ。


 そして、そのときには――。


(キスだけでは、きっと済まない……うふふ)




 ティナは女子寮の自室に戻り、シャワーを浴びていた。


 一糸まとわぬ裸体は、おとなしそうな容姿とは裏腹に肉感的だ。


「アーロンくんに会う前に身を清めないとね、ふふ……」


 いきなり一線を超えるとは限らないが、そうならないとも限らない。


 彼が持つと噂されている『女性と関係を持つことで、自分と相手を強化する』スキル……。


 それが事実なら、自分も恩恵を受けたい気持ちは当然ある。


 だが、それだけではない。


 魔族との戦いで見せた凛々しい姿――。


 それが忘れられない。


 彼自身への興味がティナの中で急速に膨れ上がっていた。





****

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