58 ティナのご褒美


「はあ、はあ、はあ……」


 リンゼアの消滅を確認するのと同時に、僕はその場に崩れ落ち、荒い息を吐きだした。


 体中の力がごっそり抜けたような消耗度だった。


 体が、比喩ではなく本当に鉛になってしまったかのように重い。


 立ち上がることさえできない。


「すごかったね、アーロンくん」


 と、ティナが歩み寄ってきた。


 僕の側にかがみこみ、右手で頬に触れてくる。


「えっ……?」


 ドキッとしたけど、すぐに体力がスーッと回復していく感じがして、これが治癒魔法なんだと分かった。


「体力回復……正確には体力の【譲渡】だけど」


 ティナが微笑んだ。


「あ、ありがとう、ティナ……でも、君だって疲れてるでしょ……」

「あなたほどじゃないわよ。これはせめてものお礼」


 言って、ティナはクスリとまた笑った。


「そうそう、約束守らないとね」


 言うなり、顔を近づけてきた。


「えっ……?」


 僕は動けない。


 ちゅぅぅぅっ……!


 思いっきり強く、熱烈に、唇を奪われてしまった。


「私のファーストキス、あげるって言ったでしょ? 魔族を倒したご褒美よ」


 ティナがわずかに頬を染めて微笑んだ。


「あーっ! ち、ちょっと、君、何やってるのよっ!」


 プリセラが叫んだ。


「お、お前……俺たちのティナの初めてを……奪いやがってぇぇぇぇぇ……っ!」


 倒れたままの《グレイランサー》の三人が同時に悲鳴を上げる。


 どっちかというと、奪われたのは僕の唇なんだけど……。


 まあ、ティナの初めてを奪ったことには変わりないか。


「本当に強いんだね、アーロンくん。私、あなたに興味が出ちゃった」


 ティナはクスクス笑っている。


「キスだけじゃなくて、もっと大切な初めても――いずれ、ね?」

「えっ? えっ?」

「高位魔族を倒しちゃうってことは、噂になっていたあなたのスキルは思った以上に強力だったってことでしょ? 私も恩恵にあずかりたいな、って」

「あ、ははは……」

「どう? 私の純潔、欲しくないの?」

「い、いや、その……」


 僕はすっかりタジタジだった。


 どこまで本気なんだろう、ティナは。


 ある意味、リンゼアと対峙したとき以上に、僕は気圧されていた――。



****

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