53 契りし魔妃2(プリセラ視点)

「お前だけは許さない」


 プリセラは『魔王の力の剣』を手に、リンゼアに近づいていく。


 相手が高位魔族でも、もはや恐怖はなかった。


 自分が手にしたこの剣は、高位魔族以上の力を秘めている――。


 それを本能的に悟っているから。


「くっ……【魔王の紅剣クリムゾンブレード】か……」


 リンゼアもたじろいでいる様子だ。


「【魔王の紅剣クリムゾンブレード】……?」

「魔王の力の一端を宿した剣……その剣を持っている以上、俺もお前に対して全力を尽くさねばならん。人間ごときに、この俺が――」


 ごうっ!


 リンゼアの全身から魔力のオーラが立ち上った。


 先ほどとは桁違いの魔力だ。


 人間が戦えるような相手じゃない。


 先ほどまでのプリセラならそう感じ、恐怖していただろう。


 けれど、今は――、


「恐怖は感じない。感じるのは怒りと憎しみだけ」


 プリセラがリンゼアをにらむ。


「あーくんの仇は、あたしが取る!」




 プリセラは赤い剣を振り回し、リンゼアに立ち向かった。


 身体能力では魔族であるリンゼアに分がある。


 が、一撃の威力はプリセラの方が上。


 結果、彼女は押し気味に戦いを進めた。


「このっ! このぉぉぉぉっ!」


 空中に無数の赤い軌跡を描き、プリセラが連撃を叩きこむ。


「こ、こいつ……っ!」


 リンゼアは魔力の剣を左右の手に生み出し、彼女の攻撃をブロックするものの、反撃に出られないようだ。


 とにかく、この剣は一撃が重い。


 リンゼアはプリセラの斬撃を受け止めるたびに、大きく後退する。


 それを追って彼女がさらに攻撃し、リンゼアはそれを防ぎつつ、また後退――という様相だ。


 やがて魔族は壁際まで追いつめられた。


「もう後がないよ」


 プリセラは赤い剣を掲げた。


 リンゼアは答えない。


 何かを狙っているのか、それとも本当に追い詰められているのか。


「どっちでもいい! あたしはお前を斬る! この場で!」


 プリセラは剣を手に突進し、渾身の一撃を叩きこむ――。





****

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