51 僕の勇気

「ぐああっ……!?」


 ベルナルドたちは、キリカ先生と同様に数秒のうちに打ちのめされた。


 いずれも腕や足の骨が折れているらしく、倒れたまま起き上がれない。


「弱いな。さっきの女より弱いじゃないか」


 リンゼアがニヤリとする。


「やはり、さっきの女が教官でお前らが教え子か……なら、後はカスばかりってことだな?」

「カスですって」


 プリセラが前に出た。


「聞き捨てならないわね」


 アウラが魔術師の杖を構える。


「僕もやるよ、プリセラ、アウラ」


 と、剣を手に進み出る僕。


 プリセラの隣に並び、魔族を見据えた。


「お前――」


 リンゼアが僕を見て、ハッとしたようにつぶやく。


「……なんだ、お前は」


 その声ににじむのは、明らかな警戒の色。


 ん、なんだ……?


「お、お前のその力……まさか、魔王の――」


 こいつ、僕が【色欲の魔王】エルメリアから力を授かったことを感知できるのか……?


 リンゼアはなおも僕をまじまじと見つめ、


「……なるほど。魔王の力の一部を授かった、といったところか? だが、まだ【機能拡張】もできていないようだな」


 リンゼアが鼻で笑った。


「魔王の力を得たのが人間では、しょせん限界がある。この俺の敵ではない!」


 ボウッ!


 魔族は全身に黒い魔力のオーラをまとった。


 バチバチバチッ、と赤い稲妻がそのオーラに絡んでいる。


 人間とは異質な、魔族の魔力――。


 僕は身構え、奴の動きに集中する。


 優れた剣士であるプリセラ、魔術師のアウラとそれぞれ何度も交わった僕は、剣も魔法も両方のスキルを複数学習している。


 今の僕は実質的に魔法剣士のような存在だ。


 魔族は魔力だけじゃなく身体能力でも人間を大きく上回っているから、近接戦闘も魔法戦闘も両方で対抗しなくちゃいけない。


 今の僕なら、それができるだろうか。


「どっちで来る――?」


 構え、備える。


 格闘か、魔法か。


「はあっ!」


 リンゼアがまず選択したのは魔法戦闘だった。


 黒い魔力弾が放たれる。


「【シールド】!」


 僕とアウラの声が同時に響いた。


 二重の魔力障壁が僕らの前に出現し、魔族の魔力弾を受け止める――。


 ばしゅっ!


 が、二重の障壁さえ問題にせず、あっさりとWシールドを貫通した魔力弾が、僕らに迫ってきた。


「くははは! お前ら人間どもと魔族では魔力の桁そのものが違う! そんなくだらん防御魔法で防げるわけがあるまい!」


 笑うリンゼア。


「だったら剣で――」


 プリせアが突っこんでいった。


「はああああっ!」


 華麗な身のこなしから斬撃を叩きこむ。


 ――いや。


「この程度か、人間の剣士とは」


 振り下ろされた剣を、リンゼアは素手でつかんでいた。


「くっ……!?」


 完全に剣を見切られている――!


「きゃあっ……!」


 次の瞬間、拳を腹に食らって、プリセラは吹っ飛ばされた。


「剣でも魔法でも、まるで話にならんな」


 リンゼアは平然としている。


 戦闘能力の次元が違う――そんな絶望的な雰囲気。


 僕は体の震えが止まらなかった。


 見れば、アウラも隣でガチガチと歯を鳴らしている。


 プリセラも顔面蒼白だ。


 そうだ、みんな怖いんだ。


 きっと、さっきのベルナルドたちだって恐怖を乗り越えて挑んでいたし、キリカ先生だって内心では怖かったかもしれないけど、生徒のために率先して立ち向かった。


「僕だって……」


 一歩前に出る。


 勇気をもって。


 さらに、もう一歩。


「ほう、なかなか度胸があるな」


 リンゼアがニヤリとした。


「それでこそ魔王の力を宿す者だ。が、その力は少々目障りだな」


 右手の人差し指で僕を指し示す。


「目覚める前に、ここで仕留めるとしよう」


 どんっ!


 次の瞬間、胸に熱い衝撃を感じた。


「あ……?」


 見下ろすと、胸元を魔力の槍みたいなものが貫いている。


「あ……あ……」


 心臓ごと。


 中心を深々と貫かれている――。


 どさり……。


 痛みすら感じず、意識が一気に薄れていき、僕は倒れた。



****

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