50 高位魔族の実力

「高位魔族――本当にお前がそうなのか?」


 キリカ先生が不敵に笑っている。


「お前から感じる魔力がそこまで大きくない。せいぜいが中級程度だ」

「くくく、俺が見栄を張っているとでも?」

「そう言っているのさ」


 キリカ先生はますます笑う。



「人間を舐めるなよ、魔族」


 どんっ!


「が、がはっ……」


 一瞬――だった。


 キリカ先生がその場に倒れ伏す。


「な、なんだ……!?」


 生徒たちがざわめいた。


 僕は呆然と立ち尽くす。


 見えなかった……ほとんど、何も。


 ただかろうじて視界に捉えられたのは、リンゼアが超速で移動してきて、キリカ先生の体に拳を叩きこんだ……らしいということ。


「速すぎる――」

「お前は勘違いをしている、人間の教官よ」


 リンゼアが笑った。


「俺から感じる魔力がそこまで大きくない、だと? 馬鹿が、普段は魔力を抑えているだけだ。中級魔族程度に、な」


 ごうっ!


 その全身から黒いオーラが湧き上がった。


「っ……!」


 すさまじい魔力だった。


 今まで感じたことがないほどの……。


 今考えれば――こいつより格上であろう魔王エルメリアは、たぶん自身の魔力を抑えていたんだろう。


 だから、これほどの魔力を感じるのは初めてだ。


 絶望的なまでの、莫大な魔力――。


「強い……!」


 僕はゴクリと喉を鳴らす。


 魔力もそうだし、戦闘技術も異常だ。


 Sランク冒険者のキリカ先生が、ほとんど瞬殺レベルで打ちのめされてしまった。


「これが、高位魔族――!」


 今までのクエストで戦ってきたモンスターとは桁違いの強さだった。


 確かにゲーム内でも魔族は基本的に中ボス扱いで出てくるし、その強さは知っている。


 けれど、ゲームの敵キャラとして強いことを認識しているのと、こうして対峙して強さを肌で感じるのはまったく別だ。


「勝てるのか……こんな奴に……」


 いきなりハードモードすぎる。


 これがゲームのシナリオなら、完全に欠陥ストーリーである。


 体が震え出す。


 僕は――恐怖していた。


 魔王から力を授けられて、徐々に強くなっていって……いずれは最強レベルになれるんじゃないか、なんて夢を見始めていたところだった。


 甘かった。


「く、くそっ」


 前に出たのは《グレイランサー》の三人だ。


「このまま殺されてたまるかよ!」

「や、やるぞ!」


 すごい、と思った。


 さっきの戦いでは僕がベルナルドを圧倒したけど、今の僕は震えて動けない。


 対してベルナルドや他の二人は、勇気をもって立ち向かおうとしている。


 そうだ、僕も。


 僕も、立ち向かわなければ。


 勇気をもって――。




****

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